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素晴らしき友情 02




「それ、重いだろ? 持ってやるよ」

「あっ、英美里さん。ありがとう!」

 クラスメイトが大量のプリントを職員室に運ぶ。これを英美里が見かけ、すぐに近寄って手伝う。


 半ば奪うような勢いではあるものの、手伝われたクラスメイトは感謝していた。

「……英美里さんみたいな美人で明るい人って、私たちみたいな地味な人間とは別の世界の人だって思ってました」

 不意に、クラスメイトの少女は呟く。

「まあ、そうかもな。アタシも昔は、住む世界が違うだろって思ってたよ」

 英美里は照れたようにはにかみながら言う。


「でも、清美がそうじゃないって教えてくれたからな。友達になりたけりゃ、住む世界なんて関係ない。誰とだって仲良くなれる」

「そうなんですか。英美里さん、清美さんと仲が良いんですか?」

「かもな。清美は友達だって言ってくれる。正直、めっちゃ嬉しい」

「あはは。私も、清美さんに友達だなんて直接言ってもらいたいなぁ」

「頼めばアイツ、言ってくれるぜ。何言ってるの? 私たちクラスメイトなんだから、とっくにお友達でしょ? とかさ」

「へぇ。清美さんのこと、よく知ってるんですね」

「もちろん。最近じゃ、一番の友達だって自負してっからな!」


 二人がそうこう会話をするうちに、職員室に到着する。

「じゃあ、ここまでありがとうございます英美里さん」

「あ~、敬語は無しにしねえか? アタシら、クラスメイトじゃん」

「えっと……うん。分かった。これからもよろしく、英美里ちゃん」

「おう! じゃあな!」

 こうして、英美里はクラスメイトと分かれる。

 時は放課後。当初の目的を果たすために、歩みを早める。




 英美里が向かったのは、校門前。そこで、ある人物と待ち合わせしていた。

「――遅いよぉ、英美里ちゃん!」

 そう。他ならぬ、清美であった。


「わりぃ、清美! プリント運んでた奴が居たからさ。ちっとばかし手伝ってたんだわ」

「あぁ、そっか。じゃあ仕方ないよね」

「いや、それでも悪かった。アタシの方から頼んだことなのに……」

「いいよいいよ。英美里ちゃんが勉強を教えてって言った時はびっくりしたけど。でも、英美里ちゃんの成績が上がれば英美里ちゃんもお得だし、私も教えた甲斐があって嬉しくなれる。お互いハッピーなんだから」

「そっか。ありがとな、清美」

「ううん。じゃ、私のうちに行こっか♪」

「おう!」


 清美と英美里は、おおよそそのような会話を交わしてから歩き出す。目的地は清美の自宅。夜遅くまで両親が帰って来ない為、気兼ねなく勉強に集中できる。なので、清美の方から英美里に提案したのだった。


 その後、二人は何事も無く帰路を歩く。

 だが、周囲に誰も居なくなった頃になって……ようやく、英美里が口を開く。

「――今日も、一人口説いてやった」

 そして、その表情は悪意と嘲笑に歪んでいた。


「なあ清美。テメェ今どんな気持ちだよ、おい。テメエの作った信頼を利用して、アタシみたいな嘘つきのクズに友達を奪われる気持ちはよぉ」

 その声は――先程まで清美を親しい友達として扱っていたものとはまるで違った。

 憎き敵を恨み、嘲るような声。友達どころか、恨むべき相手に向けるような悍ましさが乗っている。


 そんな豹変を目の当たりにして……しかし清美の態度は変わらない。

「別に、どうも思わないよ」

 だが、少し辛そうな笑みではあった。


「たとえ演技でも、英美里ちゃんがみんなと仲良くしてくれるなら、その方が私は嬉しいよ」

「ケッ。いい子ぶりやがって。そういうとこ、キメェんだよ。死ね」

「死ねはひどいよぉ」

 苦笑いを浮かべつつも、清美の態度は変わらない。どこまでも英美里を信頼する。良い部分だけを見ようとする。良い部分だけを読み取り、喜ぶ。


 ある種不気味ですらある、清美の態度。これが英美里には気に食わなかった。

「……まあ、今はまだ準備段階だからな。気長に待ってろよ。そのうちテメエの全てをぶち壊してやる。そのために、お前の何もかも利用してやる。善人の清美様には、断れねぇよなぁ? アタシっていう友達が協力してくれって頼んでんだ。そりゃあなんでも力を貸してくれるだろ?」


 清美は、英美里の言葉にしっかり頷く。

「もちろんだよ。私は、英美里ちゃんを信じてる。たとえ私を傷つけるためだったとしても、いつか分かってくれるって思う。だから今は、英美里ちゃんが私の側にいてくれることを幸せに思ってるんだ」

「ケッ、そうかよ。……でもまあ、そうでなきゃ面白くねぇよなぁ? せっかくアタシが謙って、テメエみてえに善人の面の皮被ってやってんだ。ちっとぐらい歯ごたえが無けりゃあなあ?」

「……私は、本当に英美里ちゃんも、みんなのことも大好きなだけだよ?」


 二人は不毛な言い合いを交わしながら、清美の自宅へと向かっていく。

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