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専属侍女ルルとの出会い 04




 真っ先にベルスレイアがルルを案内したのは、自室であった。

「今日から貴女は私の寝起き、衣食その他あらゆる生活の些事を支えることになるわ。当然、朝はこの部屋に来て私を起こして頂戴」

 部屋を見せつつ、ベルスレイアは仕事について説明した。


「畏まりました。起床時間はどうなさいますか?」

 ルルは真面目に、仕事についての質問を返す。

「さあ。そんなの知らないわ。貴女が判断なさい」

 そしてベルスレイアは無責任に言い放つ。これには内心、ため息を吐くルル。起こして欲しい時間が不明なのに、起こせ。それはつまり、気に入らないタイミングで起こされたら怒ると言っているようなもの。


 だが、文句は言えない。それが専属侍女という仕事なのだから。


 なお、この心配は杞憂である。

 ベルスレイアの場合は、実際にいつ起こしてくれても良いから判断を任せたに過ぎない。寝起きは良い方なので、あんまりにも早い時間で無い限り気分良く起床する。

 早起きしたい場合も、いつ頃起こしてほしいか前日には伝えるようにしている。案外、真面目なのだ。これまでベルスレイアの目覚まし係だったメイドも、一度だって叱られたことはない。


 そうした真面目さは、かつて清美であった頃の癖であった。貴族になって、傲慢不遜になっても変わらぬ気質。そのギャップが可愛いと、白薔薇及び黒薔薇の間では語り草にもなっていたりする。


 だが、ルルはそのようなことは知らない。ベルスレイアを不快にさせぬよう、完璧な起床プランを脳内で練り始める。

「さあ、次に行きましょうか」

 そしてベルスレイアも、ルルに気遣うことは無い。妙な部分で勘違いを起こしたまま、案内が続く。



 続いて訪れたのは調理場。

「私の食事はここで毎日、決まった時間に作られるわ。それをルル、これからは貴女が運んでちょうだい。配膳を済ませたら、私を呼びに来なさい」

「畏まりました」

 さほど奇妙な点も無く。この指示に関しては、ルルはすんなり受け入れる。


 だが、そこでふと気づく。ルルは周囲を見回し、訊く。

「あの、ベル様。どうして調理場に料理人が居ないのですか? 見た所、調理をしているのはメイドのようですが」

「ええ、そうよ。うちでは全てメイドがやっているの」

 ベルスレイアは、ルルの質問に答える。


「彼女らは私に従順な者達。私が所有することを認めてあげた尊き者。エプロンドレスのフリルを花弁に見立てて『白薔薇』と呼ぶのよ。良い名でしょう?」

「はあ」

 名よりも、ルルは別のことが気になった。

「メイドが、料理まで任されているのですか?」


 メイドに料理が出来ないわけではない。だが、普通の貴族は専属の料理人を雇う。メイドと料理人では腕前が違う。より良いものを食べる上で当然の選択である。

 だが、ベルスレイアの場合はそうした常識が通用しない。

「前任の料理人が男だったのよ。私は女。そして尊き私が女であるなら、此の世の尊ぶべき性は女だけよ。男は解雇して当然でしょう?」

「な、なるほど」

 ルルは困惑しながらも、同意の言葉を返す。


 男性を差別する理由も異常だが、それだけで料理人を解雇するのもまた異常。そして、空いた穴をメイドで、しかも女だからという理由で塞ぐという発想も異常。

「ベル様は、メイドの作る料理でご満足なされているのですか?」

 ルルは率直に、疑問に思ったことを尋ねる。


「当然よ。彼女達は私の所有物。私が認めた存在が、私に求められた仕事を、全霊でもって遂げた結果だもの。美味しくないわけが無いわ」

 自尊心が回りくどく巡って、最終的に優しい。そんな一面もまた、ベルスレイアが白薔薇に敬愛される所以である。

 が、ルルにはただちぐはぐで、おかしなことになっているとしか感じられなかった。傲慢な貴族が、未熟な腕前で作られた料理を満足気に食べる。何がどう噛み合えばそうなるのか、理解できなかった。


 ただ、ベルスレイアも決して料理にこだわりが無いわけではない。鈴本清美としての人生経験があるからこそ、料理の形態や品位にはこだわりが無い。ただそれだけのことである。

 例えば昨日の夕餉は、何か色々と突っ込み煮込んだポトフである。気位の高い貴族であれば、豚の餌だ何だと言って怒り狂いかねない。

 が、庶民的な感覚も持ち合わせるベルスレイアにとっては美味しければ可。見た目も彩りがあって悪くない。お腹にもたまる。素敵な料理じゃないの、という判断になる。


 要するに、ベルスレイアは単なる庶民食でも満足できる貴族である。メイドが料理を担っても問題が無い理由はそこにある。だが、ルルにはさすがに想像もつかない。

 よってここでもまた、妙なすれ違いが起こる。

 ベルスレイアは変人である。それが、ルルの認識として固まりつつ合った。

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