専属侍女ルルとの出会い 02
ベルスレイアの出した求人に応募する者は数多く居た。
公爵令嬢の専属侍女。しかも第一王子の婚約者だ。これ以上にないほど名誉ある職位となる。人が集まるのも当然と言えた。
しかし、その多くはハズレ。ベルスレイアにとっては、気にも掛からぬほどの凡人ばかり。
基本的に、白薔薇と同程度以下の人材は脚切り対象である。そして白薔薇は元々公爵家で雇われるようなメイド部隊である。しかも、ベルスレイアの信者。常日頃からベルスレイアにふさわしくあろうと、その能力を磨いている。
さらに、ベルスレイアは特別性を重んじる。雇う侍女がどの程度の人間か、白薔薇及び黒薔薇を動かし集めた情報で判断する。そして何か特別な部分の無い人間であれば、やはり脚切りする。
このせいで、ベルスレイアの専属侍女探しは難航する。二つの基準を満たす人材が全く居ないせいで、応募した者の全てが脚切りされた為だ。
この日も、ベルスレイアは集められた専属侍女候補の経歴を纏めた紙へ目を通す。
「これは駄目。こっちも駄目。これは、あら。没落伯爵家の娘ね。知っているけど、この子は駄目だわ」
経歴、実力共に十分であったが、この侍女はLTOにおける主人公の専属侍女候補であり、親友となる少女だ。この世界がどこまでLTOと同じ歴史を辿るかは不明。だが、いずれ自分の元を離れるかもしれないなら雇うことはできない。
「さて、次は……あら。これも面白いわね」
この日、目を通した書面の四枚目にて、最後の一枚。それはベルスレイアの目を引いた。
能力は申し分なし。現在は地方の男爵家にてメイド長を務めている。
そして、他の専属侍女候補には無かった特徴。
「本人が狐の獣人族で、しかも元は孤児。それが今では男爵家のメイド長、ね」
その経歴は、ベルスレイアの琴線に触れた。
獣人族とは、人族の一種であり、獣の耳と尾、そして高い身体能力と変身能力を持つ種族である。人の形態から変身することで獣の姿を取ることができる。このため、多様な戦闘状況に対応可能。身体能力もあって、極めて戦闘能力が高い種族として知られている。
だが、基本的に聖王国サンクトブルグ、つまりベルスレイアの住まう国には生息していない。
理由は聖王国の歴史にある。聖王国サンクトブルグは、元は人類至上主義を掲げた国であった。獣人は妖精族や魔族と同様の亜人とみなされ、国内から排斥された。結果、サンクトブルグに住まう獣人は居なくなった。
それから時が経ち、現在のサンクトブルグは人類至上主義を撤廃している。そのため、他国から多様な種族が入り込んで来ている。が、それはまだ少数派。圧倒的に数が少なく、その中でも獣人は特に少ない。かつてのサンクトブルグの暴挙が、未だ強く禍根を残しているのだ。
そんな獣人族は、当然サンクトブルグでは立場が悪い。差別こそ無いものの、獣人族は信用ならない、とする風潮がある。獣人族も人間を敵、ないし危険な存在として認識しており、これが原因となり獣人族の社会的信用度は低くなっている。
なので、獣人族が貴族の屋敷で働くというのは極めて稀。しかもメイド長という立場ある役職ともなれば異例の事態。通常では考えられない。
そんな獣人族のメイド長。ベルスレイアの興味を引くのは当然であった。
「名前は――『ルル・アプリコット』というのね。いいわ。この子にしましょう」
ベルスレイアは、既にルル・アプリコットを雇うつもりでいた。言い方を変えれば、逃すつもりは無い。既に自分の持ち物に加えた気分である。
「すぐにこのルル・アプリコットを呼び出して頂戴。明日にでも面接をして、採用するわ。そのまま彼女が私の専属侍女よ」
「かしこまりました」
ベルスレイアの傍らに控えていた白薔薇の一人が、頭を下げて部屋を退室する。ベルスレイアがやれと言えばやる。狂信者の白薔薇、及び黒薔薇は、ルル・アプリコットの獲得の為に行動を始めた。