表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/180

剣術指南役シルフィア 16




 望むままに神託の水晶を入手したベルスレイアはご機嫌であった。屋敷に帰る馬車の中、シルフィアに語りかける。

「帰ったら、早速剣術を教えてくれるかしら? 今からもう、既に次の転職が楽しみだもの」

 既にベルスレイアは、拝借した神託の水晶を使う算段をしていた。


 自由に転職が可能。それはつまり、本来は取得不可能なスキルも習得可能であるということ。ベルスレイアは最高で、最強でなければならない。つまりあらゆるスキルを習得するのは当然のことである。

 そして、自分の所有物たるシルフィアに関しても同様である。最高の私が所有する以上、最高の剣士でなくてはいけないわ。そう考えるベルスレイア。


 よって、シルフィアを鍛える意味でも剣術指南は必須である。この世界では、レベル上げ以外にも力をつける手段がある。剣術指南という形で修行をすれば、ステータスは上昇する。

 当然、スキル習得にはレベル上げが必要。そしてレベル上げには魔物等、濃い魔素を肉体に内包する生物を殺さなければならない。剣術指南ではそれが不可能。よって、また別の日に、別の手段でレベル上げも図らねばならない。


 そうした将来的なプランに考えを巡らせ、笑うベルスレイア。レベル上げはこの世界に転生して以来、始めて能動的に行う娯楽だ。既に楽しみが胸中に溢れ、表情に出るほどである。


 ただ、残念ながらこの感情を理解する者は存在しない。むしろ、ベルスレイアの笑顔にシルフィアは恐怖した。これから剣術指南でどんな目に遭うのだろう。その想像もつかぬ近未来に怯え、溜息を吐く。

 そして、この考えも間違いではない。剣術に人生をかけたシルフィアという存在を揺るがす事態が、待ち受けているのであった。



 屋敷に帰還するなり、ベルスレイアは信奉者のメイドに宣言する。

「魔物を殺したい。私とシルフィアだけで探索できるダンジョンをリストアップしておきなさい」

 ベルスレイアの要求に、メイド達は応える。疑問も質問も無い。ベルスレイアが求めるなら、それは絶対である。

 立派に教育、洗脳済みのメイド達は一礼し、すぐに行動に移る。


 そうして去っていくメイドを見送り、ベルスレイアはシルフィアに向き直る。

「さて。それじゃあ、約束の剣術指南をして頂こうかしら?」

 言って、意地悪げに微笑むベルスレイア。これに嫌な予感を感じ、息を吐くシルフィア。逃げることは出来ない。ならば、せめて堂々と受け入れよう。


「はい。剣術なら、私にお任せ下さい」

 シルフィアは、指南という建前で自分に見舞う災難について思うことを辞めた。



 その後、二人は装備を整えて庭へと出た。フラウローゼスの屋敷には訓練場のようなものは存在しない。故に、剣術指南をするならば屋外しかない。

「まずは、実戦形式で実力を見ます」

「ええ。そうして頂戴」

 シルフィアはベルスレイアに方針について告げる。特に問題は無く、ベルスレイアも頷く。


 そして、構える二人。シルフィアは当然ながら、ベルスレイアも構えをとった。近衛騎士団の詰め所で見せた、素人のような構えではない。両手で剣を持ち、正中線に合わせて真っ直ぐに掲げている。


 シルフィアは知らぬことだが、これはベルスレイアの前世の世界でいう剣道の構えに似ていた。かつて清美であったころ、ベルスレイアは数々の部活動に助っ人として顔を出していた。剣道部もその一つである。

 そうした経験から、ベルスレイアは剣道の心得が僅かながらあった。その上、LTOという世界で剣を振る機会もあった。故に、剣道の心得を元にした、ベルスレイアなりの我流剣術が誕生することとなった。


 当然、それはLTOというゲームの世界の話。つまりベルスレイアの剣術は所詮遊びの剣術。スポーツよりは実戦的だが、殺し合いの状況下では児戯に等しい。だからこそ、ベルスレイアはシルフィアから学ぼうと考えていた。実戦的な剣術というものを。そうすることで、より強く完璧な自分を目指していた。


 一方、シルフィアは驚いていた。ベルスレイアを素人と侮っていたのもあるが、それ以上に構えの美しさに目を見張っていた。隙の少ない、防御的な構え。ベルスレイアの腕力による鋭い一撃を想像すれば、防御を固められるというのは恐ろしい話である。

「ベル様は、素人ではなかったのですか?」

 思わず、そう訪ねてしまうシルフィア。


「あら。私は素人よ。強い相手を剣で殺したことも無いんだもの。そんな鈍らの剣術、子どものお遊びみたいなものでしょう?」

 ベルスレイアは答える。これに、シルフィアは困ってしまう。確かに相手を殺す為の技術と、訓練で型だけを学んだ技術では雲泥の差がある。だが、ベルスレイアの構えは型だけのものと思えなかった。


 実際に、シルフィアの僅かな動きに反応し、ベルスレイアも僅かに動く。機微を読み取り、対応している。これは格好だけ整えた構えとは異なる反応であった。そのため、シルフィアはベルスレイアの剣術を素人のものとは思えなかった。少なくとも、命のやり取りに近いレベルでの手合わせの経験はある。そう考えた。

 これは、LTOというゲームで敵を倒し、PvP大会に参加した経験があると言う意味では正解だった。


 甘い立ち回りは出来ない。それを確信し、シルフィアは息を飲む。ベルスレイアは間違いなく強者。それ故の緊張感が高まる。

「……では、いきます」

 静かに、試合開始の宣言があった。

お久しぶりです。

長らく投稿を休んでいましたが、ようやく投稿を再開致します。


投稿を休んでいた理由としては、任天堂の某乱闘ゲームが発売された為です。

存分に遊びましたので、そろそろ執筆に時間を使おうかと思います。


まだあまり書き溜めは出来ていませんが、隔日投稿を開始します。

それでは宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ