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剣術指南役シルフィア 12




「では、そろそろ転職をしましょうか」

 ベルスレイアは、ようやく本題に戻る。


 神託の水晶に手を翳し直す。ステータスを示していた光の浮き文字が揺らぎ、水晶の中へと戻っていく。

 それを確認すると、ベルスレイアは口を開く。

「職業選択」

 望む機能を起動する言葉である。これに反応し、水晶は再び光の文字を浮かび上がらせる。


 文字は無数に浮かび、そしてどれもがベルスレイアの望んだものだった。見知った言葉、LTOにも存在した無数の職業が並ぶ。

 そのほぼ全てが下級職と呼ばれる職業だった。上位職は打槍闘士のみ。そして、打槍闘士だけ光が暗い。現在の職業であり、選択不可能であることを示しているのだろう。


 数々の文字を見渡しながら、ベルスレイアは一言だけ口にする。

「剣士」

 それと同時に、光の文字は水晶の中に戻り、消えていく。ただ一つ、剣士の文字だけが宙に残る。光を強め、ベルスレイアに接近し、そのまま吸い込まれていく。


 剣士の二文字がベルスレイアの中に入り込むと、これで転職は完了。LTOでも経験した通りの手順であった。

 つまり――LTOとは違い、転職の制限は無かったということになる。


「ステータス確認」

 ベルスレイアは、転職が出来ているか確認する為、神託の水晶の機能を再び起動する。


――――――――


名前:ベルスレイア・フラウローゼス(Bellsreia Flaurozes)

種族:吸血鬼

職業:剣士

レベル:1


生命力:120

攻撃力:43

魔法力:45

技術力:41

敏捷性:36

防御力:31

抵抗力:33

運命力:44


武器練度:剣A 打槍S 拳A

魔法練度:闇A 炎C


スキル:回避 血統 カリスマ 先手必勝 武器節約

    根性 自然治癒 孤高 人類特攻

    血の呪い 血の解錠 血の翼 魔素操作

    覇者の魂 赤い月 収納魔法 血の魔眼


――――――――


 神託の水晶が表示した文字は、ベルスレイアの望んだ通りの内容であった。

 さらには、成長上限についても新たなことが分かった。下級職の成長上限は一律20であり、生命力は60である。つまり、ベルスレイアの成長上限は最低でも魔法力が25、生命力においては60も上昇していることになる。


 さすが私ね。と、満足して頷くベルスレイア。「終了」と一言呟き、神託の水晶の機能を終了させる。ステータスを示す光は揺らぎ、水晶に吸い込まれて消えていった。


「――さて、これで用件はおおよそ終わり。後は一つだけよ」

 ベルスレイアは言うと、シルフィアの方を向いて微笑む。

「まだ何かなさるのですか?」

 転職すれば終わりだと思っていたシルフィアは尋ねる。同時に、何か嫌な予感を感じ取っていた。


「大したことじゃないわ。神託の水晶を貰っていくだけよ」

 大したことではなく、大それたことである。嘘は無いが、シルフィアには刺激が強かった。

「教会の、それも神託の水晶を盗むなんて……正気ですか、ベル様?」

「また私を疑った。本当にシルフィは駄目な子ね」

 理不尽に避難されるシルフィア。だが、さすがに引き下がるわけにはいかない。


「いくらベル様が望むからといって、盗みを許容は出来ません」

 正義感の強い真面目なシルフィアだからこそ、認めることは出来ない。

「盗みなんてしないわ。これは本来私の物だもの」

 だが、ベルスレイアはシルフィアに反論する。


「昔、神託の水晶が一つ欲しいと父を通して教会にお願いしたことがあるの。当時は駄目だと言われたわ。だから、この水晶は私の物なの」

 理屈が飛躍していた。シルフィアは理解できず、頭を抱える。


「……あの、ベル様。断られたのであれば、これは教会の物なのでは?」

「馬鹿言わないで。私が欲しいと願ったら、それはもう私の物よ。駄目だと言うから今日まで貸してあげていたのだから、感謝して欲しいぐらいよ」

 問うた自分を恥じるシルフィア。ベルスレイアに常識が通用しないことは、散々学んだはずだったのに。未だ人の理屈で理解できるつもりでいた自分が間違っていた、と考える。


 そして、これは自分の罪だ、とも考えていた。ベルスレイアを教会に連れてきたのは自分。犯罪の片棒を担いだのである。ベルスレイアが人の常識に縛られず、何の悪意も無く犯罪を犯すのであれば、この場合悪いのは自分だけである。

 そう思ったシルフィアは、覚悟を決める。


「……分かりました。ならば、教会から一つの神託の水晶が失われるのは私の罪です。どうか、全てを見逃す罪深き両目を貴女の手で潰してください。これを贖罪の証とせねば、私は自分を許せなくなります」

 言って、ベルスレイアの前に跪き、頭を下げるシルフィア。


 もう私は逃れられない。悪魔に仕えることを約束してしまった。今さら騎士としての契約を反故には出来ず、かと言って悪魔の行いを見逃すことも出来ない。ならば――知らずの内に悪魔と契約した罪を、これから幾度となく悪魔の所業を見逃す罪を、両目を潰すことで贖罪しよう。

 それが、シルフィアの考えであった。


 過激な思想だが、これはシルフィアにとっては自然な考えでもある。

 近衛騎士団に所属していた頃も、幾度となく自分の正義感に従い、勝手な行動を取ってきた。謹慎処分を受けた数も知れない。副団長という肩書も、暴走しがちなシルフィアに団長が目を掛ける為のものであった。


 つまり元よりシルフィアは、自分の思想に殉ずる過激な性格をしている。目を潰せ、という話も実は初めての発言ではない。かつて近衛騎士団に所属していた頃にも、団長のゲイツに対して同じことを言った経験がある。

 当然、目を潰すわけにはいかなかった為、結局ゲイツが折れてシルフィアの為に都合を付けた為、両目は無事で済んだのだが。


 何にせよ、シルフィアは本気で両目を捧げるつもりであった。忠誠ではなく、己の信念の証として。


 しかし――ベルスレイアは、そのような行為を許さない。

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