素晴らしき友情 01
清美と高城の確執は、クラスだけでなく一年全体の間で有名なものとなっていた。
清美と高城が同じ場所にいる時、誰もが緊張する。
そのような状況にもかかわらず、清美は態度を変えない。
「高城さん、おはよ♪」
朝、廊下ですれ違えばフリフリと手を振る。
「うっせえ死ねブス」
辛辣な言葉を返す英美里。当然、周囲の空気は氷よりも冷たく凍てつく。
だが、それでお清美は変わらない。
「うぅ……もぉ! 高城さん、ブスはひどいよぉ!」
ぷりぷりと可愛らしく怒ってみせる清美。冗談か何かを言われたような反応。清美が傷ついていないことに、周囲の人々は一安心する。
一方で、英美里は尚更のこと苛立つ。
「チッ……何なんだよ、アイツ」
自分の暴言がまるで効いていないことに、苛立ちが募るだけの英美里。どうにかして、清美の面の皮を剥いでやりたい。あのぶりっ子めいた顔を壊して、内面を引きずり出してやりたい。
そんな考えが、怒りの渦巻く英美里の脳内を席巻していた。
「――いっちょ、気合入れてシメるか」
一人、英美里は呟く。その怪しい企みの声は、誰の耳にも届かない。
それから、数日後のこと。
清美の下に、英美里も含めた不良グループ全員が集まり、頭を下げていた。
「今まで悪かった。この通りだ!」
そして謝罪。
「アタシら、思い通りにならないアンタが気に入らなかったんだ。でも、別にそれはアンタのせいじゃないって気づいた。アンタは悪いやつじゃない。だから……今までの態度とか、全部反省してる。だから許して欲しい!」
英美里の宣言が、朝礼前の教室に響き渡る。
クラスメイトほぼ全員が集まる中での謝罪劇。当然、周囲の反応が返ってくる。
「貴方達。ちょっと都合が良すぎると思わないの?」
最初に反応したのは、清美信者の一人でありクラス委員長でもある雪菜だった。
「昨日まで、ずっと清美に酷い態度とってたじゃないの。今さら急に頭を下げたからって、信じられるわけないでしょ?」
「……そのとおりだ。信じてくれなんて言わねえよ。だから、信頼はこれから態度で示して手に入れるつもりだよ」
雪菜の非難にも、英美里は躊躇わず堂々と答える。その表情は、真剣そのもの。
そこに嘘が入っているようには見えない。本気で語る者の目をしている。そう感じた雪菜は、ひとまず謝罪が本物であることは信じることにした。
「本当に、清美に悪いと思ってる? ってか、何が悪かったか分かってるの?」
続いて怒りの言葉を上げたのは薫だった。
「……アタシらは、誰にでもいい顔してる清美のことが気に入らなかったんだ。でも、今考えてみりゃ、それって悪いことじゃねえなって思ってる。だからこれからは、清美の良いところを否定したりしねえ。アタシも、清美みたいになりたいって思ってるからな」
清美みたいになりたい。清美の良いところ。その辺りの言葉が、薫の琴線に触れた。誰にでも優しく、天使のように尊い清美。それを美しく思う薫だからこそ、英美里の視点には共感できるものがあった。
「ねえみんな、聞いて?」
ここで、渦中の人――清美が口を開く。
「私は別に、英美里ちゃんに怒ったこと、嫌だなって思ったことなんて一度も無いよ?」
そして出てきたのは、これ以上にない許しの言葉だった。
「許すも何も無いよ。私は最初っから、英美里ちゃんと友達だよ。だからこれからは、もーっと仲良くしようね、英美里ちゃん♪」
そう言って、清美は英美里に手を差し出す。
「あぁ――ありがとう、清美!」
英美里は感極まって、清美の手を両手で握る。そして幸せそうに、胸元に抱きしめる。
「アタシ、これからはアンタの一番の友達になれるよう頑張るよ」
その言葉は、本当に幸せそうに聞こえる声で発せられた。
「ちょっと。清美の一番は私なんだけれど?」
「いやいや、私だし!」
「……一番がだめでも、せめて二番や三番に置いてほしいな、って思っちゃだめですか?」
そんな清美と英美里を取り囲み、雪菜、薫、美緒が口々に願望を語った。
一瞬だけ、英美里の口元が嫌味に笑ったことにも気づかずに。