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剣術指南役シルフィア 10




 耳を調教されつつある自分に嫌気が差しつつも、シルフィアは尋ねる。

「その、ベル様の種族が吸血鬼とあるのですが」

 まずは最も気になる部分を訊いた。


「そうね。私は吸血鬼らしいわ」

「ま、まさか私もベル様の眷属にされてしまうのでしょうか?」

「しないわよ。というか出来ないわ。おとぎ話じゃないんだから。もう、シルフィは本当にお馬鹿ね」

 呆れてため息を吐くベルスレイア。


 だが、シルフィアの勘違いも無理は無い話である。

 何しろ、吸血鬼という種族は人類の領域では既に絶滅している。非常に血の薄い、ほぼ人間同然のダンピールならわずかに生存しているが、純粋な吸血鬼は存在しない。おとぎ話の間違った知識が伝わるのも無理はない。


 では、この世界のどこに吸血鬼が存在しているのか。――LTOというゲームには、魔王と呼ばれる存在があった。魔族と魔物を束ねる王。魔族の領域より、人類を殲滅せんと攻めくる大敵。

 これに対抗し、最終的には魔王を倒すのがLTOのシナリオ上の目的であった。


 そして魔王と戦う過程で、敵専用の種族として数々の魔族が登場する。

 その一つが、吸血鬼である。

 今でも魔王の領域には吸血鬼を始めとした、無数の魔族が生息している。


 そしてベルスレイアは、なぜかその吸血鬼なのだ。

 しかも混血ではない。純粋な吸血鬼。フラウローゼス家の一人娘であるにもかかわらず、だ。

 これはおかしい話である。ルーデウスは紛れもなく人間である。その血を引くベルスレイアが、混血ではなく純粋な吸血鬼。


 当然ベルスレイアは、その異常性には気づいている。自分の出生の秘密に関わる理由があるのだろう、とも考えている。だが特に究明しようとは思わない。理由にかかわらず、自分は吸血鬼なのだ。何を恐れる必要があるのか。という心境による無関心である。


 なお、シルフィアはこの異常性に気付くことは無かった。ベルスレイアに眷属にされてしまうのでは、という恐怖が判断を曇らせたのだ。

 実際の吸血鬼は、単に食事の一環として吸血能力を持つ生物に過ぎない。それ以外は単なる魔族である。小鬼や大鬼と近い種であり、血を吸った相手の種族を変えてしまうような力は無い。


「全く。シルフィだってエルフでしょう? そんなに驚くこと無いじゃないの」

「で、ですが吸血鬼って、魔族ですよ? さすがに平静では居られないといいますか」

「魔族も妖精族も似たようなものじゃない」

 ベルスレイアは平然と語る。これにシルフィアは口を噤んでしまう。


 これには、種族ごとの政治的な理由がある。

 LTOにおける人型の生物は、大別して三種類に分類される。人族、妖精族、魔族の三種類である。これはこの世界も同様である。

 魔族には吸血鬼やラミア、スキュラ、アラクネ等が存在する。妖精族にはエルフ、ドワーフ、フェアリー等。人族は人間や各種獣人が属する。


 これらの種族を分けるものは、身体の作りである。

 生物として、肉体の構造に魔素を必要としないのが人族。魔素を必要とするのが魔族や妖精族である。


 では妖精族と魔族の違いは何なのか。実は、生物としての違いは存在しない。この二つを分けるのは、魔王に属するか否かである。

 魔王と敵対する魔族が妖精族と名乗り、人族の国々もこれを認めた。これにより、人種は三種に分類されることとなったのだ。


 そうした歴史的過程から、妖精族は魔族と同じであることを否定したがる。シルフィアもまた、エルフ故に同様である。だがベルスレイアの言う通り、吸血鬼とエルフは、人と獣人程度には近い種なのだ。


 似たようなもの、というのも事実。妖精族も魔族も、老化をしない。寿命こそまちまちだが、生涯青年期の肉体を維持する。肉体の特徴も近く、耳の尖った種族は妖精族にも、魔族にも数多い。中でもエルフは耳が長く、特徴的ではあるのだが。


 なお、魔族や妖精族と魔物の間には明確な違いが存在する。

 どちらも肉体の構造に魔素が必要なのは変わらない。だが、魔物の場合は肉体の多くが魔素で構成されているのだ。


 例えば小鬼――ゴブリンはその爪、角、心臓だけが実体である。他の部分は、魔素変換で作られた魔法の肉体なのだ。故に、生命活動を止めると爪と角、心臓を残して肉体は蒸発する。

 生きている間は実際の肉とほぼ変わらぬ性質を持つが、一度死ぬと不可逆に霧散し、消滅する。これが魔族と魔物を分ける最大の相違点である。


 故に、ゴブリンと吸血鬼は生物として近い性質を持っているものの、それぞれ魔物と魔族に分類され、別物として扱われる。



 ――といったような知識を、ベルスレイアは滾々とシルフィアに語った。自分を異物扱いされるのが癪であったためである。何より、ベルスレイアの方はシルフィアを親戚のような感覚で見ている。なのにシルフィアの方に距離を取られるのは不服だった。


「理解できたかしら、シルフィ?」

「はい……とりあえず、ベル様と私は近い種族なのだということは把握しました」

 あまり理解していない様子で答えるシルフィア。だがベルスレイアは満足げである。違和感さえ取り除けたのなら、他はどうでも良いのだ。

少しストックが多めに書けたので、隔日の投稿日ではありませんが投稿してみました。

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