剣術指南役シルフィア 08
シルフィアを入手したベルスレイアは、当日は屋敷に馴染んでもらうことを優先した。新しいおもちゃを手に入れたわ。と、屋敷の者に紹介する。多くの使用人達、そしてルーデウスは困惑した。信奉者たるメイド達はおめでとうございます、と祝辞を送った。
紹介されたシルフィアも困惑した。英雄ルーデウスはどこか卑屈。屋敷のメイドやその他使用人達はみなベルスレイアを恐れている様子。だが一部のメイドのみが、異様に恍惚とした表情でベルスレイアに仕える。
変な屋敷に来てしまった。心底シルフィアは、自分の今後を心配した。
そして与えられた部屋で一晩を過ごし、翌日。シルフィアは早速、ベルスレイアに振り回されることとなる。
「そうね、今日は教会に行きましょう」
「教会ですか? 何のご用事で?」
「転職するのよ。この世界でも、職業選択は神託の水晶で行うのでしょう?」
「それは、そうですが」
この世界とは何だろう。疑問に思うシルフィア。だが追求する間も無く、ベルスレイアが話を進めていく。
「せっかく貴女から剣を習うのだもの。剣士系の職業で学んだほうが効率が良いはずよ」
「そうなのですか?」
「私が言うから正しいのよ。シルフィは私を疑ってはいけないわ」
ベルスレイアは言って、お仕置きとしてシルフィアの耳を噛んだ。
なお、ベルスレイアの目的は転職そのものではない。転職が出来るかどうか、試すことが目的である。
というのは、この世界とLTOの違いに理由がある。LTOでは、ゲームバランスを取るために転職はプレイヤー一人につき一回。下級職から上級職になれば、それで終わりだった。職業選択をやり直すことも出来たが、それは下級職を一からやり直すだけのもの。育成の成果を放棄するだけだった。
しかし、この世界はゲームではない。バランス調整など必要ない。一からやり直すシステムなども存在しない。
ならばこの世界であれば、転職は何度でも自由自在に可能なのではないか? ベルスレイアは、そこに思い至った。
以前からその可能性には気づいていた。だが、ベルスレイアは転職の必要性に駆られていなかった。何しろ、この世界はLTOとは違う。鍛えれば、鍛えた分だけステータスも上昇する。つまりレベルが上がらなくとも強くなれるのだ。
故に、ベルスレイアは打槍闘士レベル20のまま鍛錬に励んでいた。実際に成長することも、血の魔眼で確認済みである。
ならば、何故今さら確認をするのか。それはシルフィアのためである。
自分の持ち物の品質にベルスレイアは拘る。当然、シルフィアにも拘る。より強くなって貰いたい、というのが本音だ。
こうなると、転職が自由かどうかは重要になる。ステータスが伸びなくとも、転職して得られる職業スキルは引き継げるはず。また、レベル20で全ての能力が最大まで成長するとは限らない。繰り返しレベルを上げることが可能なのであれば、その方が都合が良い。
そこで今日は教会へ向かい、まずは上位職を極めた自分から転職を試そうという考えに至る。全てはシルフィアの為。そしてシルフィアを所有する自分の為の行動。
そうとも知らず、シルフィアは呆けた顔でベルスレイアに付き従う。
突拍子は無いけど、そんなに悪い人じゃないのかもしれない。そう思いながら、耳の噛み跡を擦るシルフィアであった。
一方で、ベルスレイアは上機嫌。シルフィアというおもちゃを手に入れ、育成ゲームを遊ぶ感覚なのだ。
それに、剣士系の職業で剣を学んだ方が効率が良いというのも事実。武器練度の成長上限が伸びるのだ。打槍闘士のままではAが限界だが、剣士系になればSまで伸ばせる。シルフィアから剣術を学ぶのだから、ついでに武器練度を伸ばした方が良い。