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剣術指南役シルフィア 05




 身支度を整え、ベルスレイアは訓練場に戻ってきた。

 手にした武器は打槍――ではなく、平凡な片手剣。


 そもそも、ベルスレイアは打槍を使えることすら隠している。これまで、父であるルーデウスにも拳で戦うところしか見せていない。こんな場所で、本命の手札を晒すつもりはない。

 何しろ、ベルスレイアには未だに分からぬ事が多い。自分の出生の秘密。父の企み。今回の新設騎士団の目的。何一つ不明なままである。


 可能な限り、手の内は晒さない。そのために選んだのが剣であった。

 手の内を隠す為だけであれば拳を使えばよかったのだが、剣を選んだのにも理由がある。ただ、これは今はまだ関係がない。後々を見越しての選択である。


「ベルスレイア殿もいらっしゃったようですね。では、早速試験を始めましょう。――特に合図はしません。好きに戦ってくださって結構ですよ」

 ゲイツは言って、訓練場の隅に歩いて寄る。邪魔にならぬよう移動した。ベルスレイアの近くに立っていたシルフィアも離れていく。


 いよいよ試験の始まりね。面白いことが起こるといいのだけれど。

 そんなことを考えながら、ベルスレイアは相手の五人を順に見比べる。血の魔眼を発動。全員のステータスを確認する。


 誰もが上級職ではあるが、能力は低い。レベル10で転職したタイプだろう。ステータスも10前後のものが多い。生命力は40、攻撃力と防御力は15ほどだが、所詮はその程度。

 敵にもならないわね。とベルスレイアは考える。剣の威力をあわせても、威力はベルスレイアの防御力に満たないだろう。LTOでは、鉄の剣の威力はたったの8。それはつまり、ベルスレイアを傷つける手段が無いことを意味する。


 ベルスレイアはあえて構えず、優雅な令嬢らしい立ち居振る舞いで五人と対峙する。剣を構えることすらせず、素人同然の格好。

「お手柔らかにお願いいたします」

 そして、ベルスレイアは丁寧に頭を下げる。


 当然、既に試験は始まっている。戦闘中に頭を下げれば、隙だらけになる。これを見逃す近衛騎士ではなく、五人は一斉にベルスレイアへと襲いかかる。

 中でも敏捷性の高い男が、真っ先にベルスレイアへ到達。剣を振り上げて攻撃を試みる。


 だが――これは罠であった。

 頭を下げたのは意図的な行為。当然、ベルスレイアは五人の動きを把握している。視線を向けずとも血の魔眼は周囲を把握可能である。まるで見ているような仕草で男の攻撃を避けるベルスレイア。


「何ッ!?」

 男が驚きの声を上げる。この生まれた一瞬の時間のうちに、ベルスレイアは反撃。剣から手を放し、男との距離を詰める。拳を振り抜き、顔面をぶち抜く。


 途端、男は吹き飛ぶ。二度、三度と地面を跳ね、訓練場の壁際に衝突して止まる。その顔は鼻から潰れ、見るも無残な有様だった。


 思わぬ事態に、残る四人の男が硬直する。一瞬のこと。だが、格上のベルスレイアを前に見せてはいけない隙でもある。

 近寄って、殴る。ただそれだけの攻撃を繰り返す。だが男たちは反応すら出来ない。三倍近い敏捷性の差が回避行動を許さない。姿勢を正すまでに三人。そして防御の姿勢を整えた段階で一人が殴られる。


 例外なく、全員が吹き飛ぶ。防御態勢を整えた一人も、為す術が無かった。ベルスレイアの高いステータスと数々のスキル。それらが合わさり、拳の一撃は鍛えられた男を一撃で粉砕する威力を持った。


 当然、そんな理由など知らないゲイツとシルフィア。想像を超える展開に唖然とし、どちらも惚けた顔を晒すばかり。

「……あの、試験はこれで合格でしょうか?」

 ベルスレイアが問いかけたことで、ようやくゲイツが気を取り直す。


「は、はい……確かにベルスレイア殿の実力は確認できました。すぐにでも、特務騎士団の団長が務まるでしょう」

「ふふっ。それは光栄ですわ。父の名に恥じぬよう、懸命に務めさせて頂きます」

 ベルスレイアは、丁寧に頭を下げる。


 そして頭を上げると、次の話題を口にする。

「ところで、ゲイツ様にお願いがございますの」

「お願い、ですか。何でしょうかな」

「先程の試験で御覧頂いたとおり、私は剣に関しては素人に過ぎません。人より腕力には優れているのですが……戦いともなれば、武器の一つでも扱えたほうが良いかと浅慮しております。そこで近衛騎士団から、私に剣を教えてくださる人材を一人、お貸し頂きたいのです」


「なるほど……騎士団にとって剣とは武威の象徴でもありますからな。団長たるもの、全く扱えないというのでは困りましょう」

 ゲイツはベルスレイアの要求を聞き、考える。試験の結果からして、ベルスレイアの力は極めて高い。英雄の娘に相応しい実力であった。となれば、これから特務騎士団は間違いなく躍進する。

 予め関係を深めておくのは、良い選択に思えた。

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