表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/180

剣術指南役シルフィア 03




 訓練場に向かうと、エルフの女がベルスレイアを見つめていた理由が分かった。

 そこには、装備で身を固めた男が五人。誰もがベルスレイアを見るなり、不快そうに視線を飛ばす。歓迎はされていない様子だった。


「――まるで、貴族の子女程度に新設の騎士団長を任せるのが気に入らない、とでも言い出しそうなお顔をしていらっしゃいますね」

 ベルスレイアは事情を悟った。この一言に、ゲイツが苦笑しつつ頷く。


「ですが、彼らを全員相手にして勝つ実力がなければ、新設される特務騎士団の団長は務まらないでしょう。何しろ、予定では選りすぐりの精鋭を少人数集めるだけですから。実力が無くては舐められます」

 ここで初めて、新設の騎士団がどのようなものなのか知ったベルスレイア。


「それも正論ですわ。ただ、婦女子を相手に集団で襲いかかるのは、近衛騎士団の誇りを傷つけることになるのでは?」

「負けるようなら、彼らは近衛騎士団ではありません」

「ふふっ。女性を取り囲み、集団リンチを加えるお仕事でもあるのかしら」

「そうならないよう祈るのが、私の今日の仕事です」


 つまり、戦って勝てということ。ベルスレイアは十分に意味を理解し、頷く。

「分かりました。こちらも装備を整えたいと思います。どこか空いている部屋でもお貸しいただけませんか?」

「訓練場の準備室では駄目でしょうか?」

「これでも乙女ですから、秘密が多くございますの」

 装備の準備も含め、自分の手の内は明かさない。暗にそう伝えると、ゲイツは理解したように頷く。


「それでしたら、来賓室をお使いください。着替え中は誰も近寄らぬよう、手配しておきましょう」

「――団長ッ! やはり、今回は試験を中止するべきです!」

 話が順調に進んでいたところに、例の女エルフが口をはさむ。


「近衛騎士団の精鋭五人を相手など、私でも後れを取りかねません! それをあの英雄ルーデウス様のご息女とは言え、年端も行かぬ少女に試練として課すなど……卑怯です! これが近衛騎士のやることなのですか!?」

「シルフィア。それは昨日も話しただろう。それに了承も取ってある。ルーデウス様も、ここで後れを取るようでは、不適格と言われても仕方ない。そう仰っていた」

「ですが!」


 女エルフ……シルフィアと呼ばれた騎士が口を開くほど、ベルスレイアは不快感を覚える。

 この私を侮るとはいい度胸ね。しかも私の貴重な時間を奪ってまで無駄な嘆願をする始末。どのように責任をとってもらおうかしら。

 頭の中で、シルフィアという女エルフへのお仕置き候補を並べ立てる。そんなベルスレイアをよそに、シルフィアとゲイツの論争は続く。


「ともかく、既に決まっていることだ。この上ベルスレイア殿まで了承しているというのに、お前が口をだすことは許されんぞ」

「それでも……私は近衛騎士団こそ正義を貫くべきだと思います。試験を言い訳に女子供に暴行を加えるような真似は許せません!」

「お前の感情の問題ではない。シルフィア、これ以上口出しするなら、副団長と言えど私の権限で謹慎処分にするぞ。ついこの間、暴走して受けた謹慎処分を終えたばかりだろう。まだ反省が足りんというのか?」


「……ここは黙ります。しかしベルスレイア様に危険が及ぶようであれば、たとえ除隊処分になろうとも試験に割り込み、実力行使をさせてもらいます」

 少しの沈黙、逡巡の後、シルフィアは宣言する。

「そういうことは、馬鹿正直に語るもんじゃないだろう。……公爵令嬢の怪我を防ぐ名目であれば、私も口出しはしない。好きにすればいい」

「ありがとうございます、ゲイツ団長」


 シルフィアとゲイツの会話が終わる。これを話半分で聞いていたベルスレイアは、ようやく終わったのね、とため息を吐く。

「……すみません、そろそろ試験の準備をさせていただけませんか?」

「ああ、申し訳ありません。それでは、シルフィア。ベルスレイア殿を来賓室にご案内してくれ」

「はっ。了解です」

 シルフィアは胸に握りこぶしを当て、ゲイツの指示に従う。


「それでは、ベルスレイア様。私が来賓室にご案内いたします」

「ええ、ありがとうございますシルフィア様」

 笑顔で受け応えるベルスレイア。だがご機嫌は斜め。無駄な手間を取らせたシルフィアの評価は、現在最低レベルにある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ