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剣術指南役シルフィア 02




 翌日。ベルスレイアは馬車に揺られながら、近衛騎士団の詰め所へと向かっていた。


 屋敷に籠もりっきりのベルスレイアだが、地理に関しては血の魔眼のお陰で詳しい。地形把握だけに集中すれば、都全体を見通すことさえ出来る。さすがに景色がぼんやりとして、どこに誰がいるかさえ判別がままならなくなるのだが。それでも地理を知る為であれば十分な情報量である。


 フラウローゼス家の屋敷は、聖王国サンクトブルグの王都、それも王城からそう離れていない位置にある。

 登城の為の道を途中まで進み、城が近づいてきたところで一度曲がる。城の東側へと向かうと、そこに騎士団の詰め所が纏めて存在する。


 が、大きな詰め所は王家ではなく王国騎士団の施設である。所属が王家ではなく王国というのは、つまり国軍であることを指す。王家の私兵ではなく、あくまでも国を維持するために使われる戦力。


 王国騎士団の施設を過ぎ、さらに王城に近づく。すると見えてくる建物が、近衛騎士団の詰め所である。王家の私兵であり、王家と王城を守るために存在する騎士団。国境の争いや魔物の討伐に駆り出されることはほぼ無い。あくまで防衛の為の戦力。


 そして王家の私物であるが故、扱いも王国騎士団とは異なる。詰め所が白く美しい石積みの壁で作られており、美しい彫刻が部分によっては施されている。古びた木製の、質素な王国騎士団の詰め所とはまるで異なる。


 そんな近衛騎士団の詰め所前で馬車は止まった。先触れが出ていたのか、詰め所前には近衛騎士団の団員らしき人物が数名立っている。


 ベルスレイアは猫を被り、優雅な仕草を見せつけながら馬車を降りる。今日は試験である為、ドレスこそ着ていない。だが、それでも華やかな装飾の目立つ服装。動きやすくも美しさを損なわない、貴族の装備である。

 その姿、仕草は人を魅了する。出迎えの騎士団員もまた、一瞬目を奪われた。

 だが、即座にハッと気を取り直し、口を開く。


「ようこそいらっしゃいました、フラウローゼス公爵令嬢ベルスレイア様。私は近衛騎士団の団長を務めるゲイツと申します」

 出迎えの団員――ではなく団長のゲイツが頭を下げる。


 これに応え、ベルスレイアも自然な動きでカーテシーをする。

「お出迎え、ありがとうございます騎士団長様。今日は私のような若輩者の為お時間を頂いたこと、誠に光栄に思います」

「こちらこそ、あのフラウローゼス家のご令嬢とお会いできて光栄です。お父上の武勇については、我ら近衛騎士団の間でも語り草ですから」


 ゲイツはベルスレイアの父、ルーデウスを褒め称える。

 何も、これはお世辞というわけではない。実際に、ルーデウスは聖王国サンクトブルグでは英雄とまで称される武人なのだ。


 万の軍を率いて、押し寄せる魔物の進行を押し留め。本人も前線で大将首を幾つも討ち取った。今から三十年も昔の魔物の大侵攻で、ルーデウスは勝利の立役者とまで言われた武人なのだ。

 ベルスレイアの前でこそ気弱でビビリの間抜けな父親だが、実は救国の英雄なのである。


 これはLTOでも同じであり、ベルスレイアも設定として父の活躍は知っていた。しかし自分の前であたふたする父を思うと、所詮クズ共の英雄などあの程度ということね。等と失礼なことを考えてしまう。


 だがそういった感情は表に出さず、花のような笑顔で受け答えを続ける。

「近衛騎士団の団長様にまで父が武勇で知られている。娘としてこれ以上の喜びはございませんわ」

「であれば、こちらも幸いです。さあ、立ち話を続けるのもアレです。試験を行いますのは詰め所の訓練場ですので、まずはそちらにご案内しますよ」

「ええ、お願いいたします」


 ゲイツの案内に従い、ベルスレイアは後を付いて歩く。

 ここで、ふと視線を感じたベルスレイア。周囲を見回すのは、令嬢としてはしたない仕草である。故に血の魔眼に魔素を注ぎ、視線を向けずに周囲を観察した。


 すると、視線の正体はすぐに判明した。ベルスレイアの後ろを守るように歩く、一人の騎士団員である。


 ――この人、エルフ?


 ベルスレイアは驚く。何しろ、その騎士団員の耳は長く尖っていた。


 聖王国には生息していない種族。妖精族の一種でもあるエルフ。本来は、妖精都市フェニキアという場所に住まう人種だ。

 LTOに於いては魔法力と技術力の成長上限及び成長率が伸びる代わり、攻撃力と防御力、生命力の成長率が悪くなる種族である。プレイヤーの選択可能な種族の一つで、魔法職のプレイヤーが好む種族でもある。


 耳の特徴を見れば、見間違いようもない。確かに、その騎士団員はエルフで違いない。しかも鎧は胸の部分が膨らんでおり、体格も華奢。どうやら女性であるらしい。

 エルフが王国に居て、しかも騎士団にいるだけでも珍しい。その上女性ともなれば他には居ないだろう。


 そんな人物が、なぜ自分を見つめるのか。これがベルスレイアには分からなかった。しかも憐憫混じりの、不安げな目付きで視線を送ってくる。


 理由は気になるが、いきなり問い詰めるわけにもいかない。


 単に試験を受けるだけでは終わらないかもしれないわね。――と、ベルスレイアは口元を緩める。退屈しのぎになるトラブルは、大歓迎であった。

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