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悪役令嬢の嗜み 10




 ルーデウスの手配により、ベルスレイアはサティウスと会うことになった。

 個人的なお茶会をベルスレイアが開く、という名目で公爵家から王家に招待を送る形で、これは実現した。


 普通なら公爵家が王家の人間を呼び立てるなど不可能だ。しかし、フラウローゼス家は王家の血も入った公爵家である。そして、今回は王家の権威を強化するため、公爵家を取り込む為の婚約が目論まれている。


 むしろルーデウスではなく、ベルスレイアが招待をする、というのは都合が良い。対外的には、ベルスレイアがサティウスに興味を持っているという形を取れるからだ。そしてこれに王家が応じるということは、ベルスレイアとサティウスの婚約を強く保証することにもなる。

 これにより、部外者はこの婚約に文句を言うな、という牽制が成立する。



 お茶会の招待はベルスレイアから王家の方々という名目だが、当然実際に招待されているのはサティウスのみである。これは事前に密書にて両家とも了承している。

 よって、フラウローゼス家の庭園の只中、ベルスレイアに会いに来たのはサティウスただ一人だけであった。


「君が、ベルスレイアだね?」

 サティウスは、ベルスレイアの姿を見つけると、そう尋ねる。金髪碧眼の美青年。LTOの恋愛シミュレーション部分で攻略可能なキャラクターの一人である。現在は十歳であり、ベルスレイアよりも身体が大きい。体付きも子供というより、青年に近づきつつある。


 庭園の中、お茶会の為に用意された椅子とテーブル。どちらも白く塗られた木製の代物で、波打つように薔薇と茨が彫刻されている。その椅子の一つにベルスレイアは座っていた。

 が、サティウスが来たと分かるとすぐに立ち上がる。


「本日は私めのお茶会にお越しいただき、誠に感謝いたします。お日柄も良いので屋外でお話をしたいと思い、場所は我がフラウローゼス家自慢の庭園を選びました。ですがサティウス様におかれましては、このように粗野なお茶会を好まないのでは、とも思っております。いかがでしょうか?」

「いや、構わないよ。それに言葉遣いも、もっと楽にしてくれていい。僕もその方が気が楽だ」

 ベルスレイアの挨拶に、サティウスは気軽な調子で返す。


「まあ。それでしたら、私も遠慮はやめにしますね」

 ベルスレイアは、花のような微笑みを浮かべる。サティウスの提案に乗り、口調を幾分か柔らかくする。


「でも、お外でお茶会がはしたないかも、と思ったのは本当のことですわ。サティウス様がお嫌でないのなら、本当に幸いですわ。私、お父様のご意向であまり外に出られませんから。その分、こういうことは屋外でやるほうが好みですの」

「あはは。僕も部屋の中で堅苦しくするよりは、こうして屋外で気楽に、季節の匂いを楽しむ方が性に合っているよ。僕たち、気が合うのかもね」

「うふふ。私は既に、サティウス様のお人柄に惹かれておりますわ」


 二人は談笑する。サティウスは空いている方の椅子に座り、テーブルを挟んでベルスレイアと向かい合う。作法としてはあまり良くないが、ベルスレイアの淹れた紅茶にすぐ口をつけ、目を見開く。

「美味しい! こんなに香りの良いものをお茶会で飲むのは、初めてかも知れない」


 サティウスが褒めるのも当然。お茶会ともなれば、貴族の子女が自分で茶を用意する。当然、美味しい淹れ方の教育は受けているのだが、やはり専門とするメイド達には敵わない。

 一方で、ベルスレイアは他人を信用していない。美味しい紅茶を飲みたければ自分で淹れる。どうでもいい時は他人任せなくせに、気分が乗るとでしゃばるのだ。

 そして才能に優れ、退屈を持て余すベルスレイアが淹れ方を学んだのだ。その腕前はメイドにも劣らぬものとなっている。


 さらに、今回ベルスレイアは茶葉を自分で選別した。無数の茶葉を血の魔眼で解析し、その中でも最高品質のものだけをピンセットで一つ一つ選びぬいた。

 ただでさえ公爵家で使われるような高級な茶葉である。これを選別した茶葉は、王家で使われるものすら超える品質を誇る。

 サティウスが驚くのも当然の事と言えた。



 その後もサティウスとベルスレイアは談笑しながらお茶を楽しみ、庭園の景色や屋外の風、匂いを楽しんだ。

 やがてお茶が無くなり、お茶請けの菓子も半分ほどに減ったところでお開きとなる。


「今日は本当に楽しかった。ありがとう、ベルスレイア」

「こちらこそ、お招きしてこんなに良かったと思えた方は他にいませんわ。サティウス様、どうか今日のお近づきの証として、私のことはベル、と愛称でお呼びいただけませんか?」

「分かった。ベル、今日はありがとう。また招待してもらえると嬉しいな」

「はい。サティウス様とこうしてお会いできるのなら」


 二人は親しげに会話する。そしてサティウスは庭園から立ち去り――ベルスレイアだけが庭園に残った。


 サティウスの姿が消えると、途端にベルスレイアの態度が豹変する。これまでは慎ましやかなご令嬢、といった様子だった。しかし突如、ふてぶてしい仕草で椅子に座り直す。

「……やはり、男はダメね」

 呟き、ベルスレイアはため息をつく。


 今日、ベルスレイアがわざわざ猫を被ってまでサティウスと親しげに接したのには理由がいくつかある。

 その一つが、確認だった。自分が男を相手にときめくことが出来るかどうかの確認。


 ベルスレイアは自分を愛している。何より自分が素晴らしいと思っている。時には鏡に見入り、第二の自分と口付けを交わすほど。

 故に、ベルスレイアが性的に興奮する対象は女性である。ベルスレイアが女性であるから、好むのも女性。もしもベルスレイアが男性なら、きっと男性の裸を見て勃起する男だっただろう。

 それほどまでにベルスレイアは自己愛を拗らせ、狂っている。


 だから当然、ベルスレイアが男性を相手にときめくことは無い。

 それを確認するために、ベルスレイアはサティウスと会い、ロマンティックな逢瀬を演出してみたのだ。サティウスはLTOにおける攻略対象。当然、眉目秀麗な少年である。

 そのサティウスを相手に恋愛ごっこをしても、心が動くことは無かった。


 故にベルスレイアはため息を吐く。自分が男を愛せないことへの悲嘆ではない。男などやはりつまらないのだ、と呆れるが為に出るため息。


「まあ、私ほど美しく愛おしいものがあるとは思えないもの。当然の結果ね」

 一人、ベルスレイアはそう呟き、残ったお茶請けに手を付けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] まず相手10歳児・・ときめくほうが異常なんじゃあ・・中身的に
[良い点] 自己愛を拗らせて、性の対象が同性になるという理由付け。 [一言] もう一つの作品は作者としては執筆意欲が湧かないのかな? 百合じゃないから?
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