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悪役令嬢の嗜み 07




 時は流れて、ベルスレイアは六歳となった。

 濡れたように艷やかな黒い髪。炎のような赤い瞳。鋭く洗練された顔立ちは美しく、六歳とは思えないほど大人びている。

 体付きも、同世代の子供と比べれば肉付きが良い。幼女趣味でない男でも、一瞬目を見張るものがある。

 LTOの悪役令嬢、ベルスレイア・フラウローゼスの美しさへと着実に近づいていた。


 赤子の頃からの鍛錬の甲斐あって、すでに肉体的には大人顔負けの運動能力を誇る。

 LTOでは吸血鬼が化け物じみた運動能力を持つことは無かった。なので、これは偏にベルスレイアの鍛錬の成果である。


 成長の過程で、ベルスレイアは様々な事を知った。


 まずは、自身の生まれについて。

 なんと、母親が分からないらしい。


 妙な話ね、とベルスレイアは当然訝しんだ。父親が分からない、というなら理解できる。しかし、母親というのは明確だ。どこの誰の腹から出てきたのか。これさえ分かれば自明となる。

 しかし母親が分からない。つまり、ベルスレイアはどこで生まれたのかさえ分からないということになる。


 だがそれはおかしい。生まれが不明な子供に、公爵令嬢という身分は不相応だ。フラウローゼス家の第一子として認められるはずが無い。

 なのにベルスレイアは公爵令嬢である。どこの馬の骨とも分からぬ公爵令嬢だ。


 父親が分かっており、その身分が公爵令嬢であり、母親が不明。これはもはや、何か秘密があると喧伝しているようなものである。


 だがベルスレイアは特に調べようとは思わなかった。

 たかが公爵家が私を抱えていられる幸運、ありがたく思いなさい。そういう態度であるため、自分の出自について拘ることが無かった。


 普通の公爵令嬢――いや、真っ当な人間であれば自分の生まれに秘密があるとなれば気になる。

 だがベルスレイアは違う。自分への絶対の自信がどこかおかしい。たとえ馬の糞の中から生まれ落ちようが、自分は自分なのだ。と、もはや狂信的でもある。

 つまり自分という宗教に寄っているベルスレイアは狂人であり、真っ当な人ではない。生まれの秘密など――最初に訝しみこそすれ、追求するほど興味は抱かなかった。不思議なこともあるのね。程度で軽く流してしまう。


 ただ、それ以上に不可解なことがあった。

 ベルスレイアの強さが、知れ渡っているのだ。


 鍛錬については人目を避けていた。腫れ物扱いで乳母との接触以外で人とも会わなかった。故に、ベルスレイアが力を持っていることを、誰にも知られてはいないはずだった。

 しかし、なぜか父親はベルスレイアの力を知っていた。


 いや、具体的には知らなかったのだろう。父ルーデウスはベルスレイアが三歳の時、野生の魔物を閉じ込めた檻にベルスレイアを放り込んだ。

 力を見せてみろ、と言いながら。


 どうやらベルスレイアが強い、という事実だけを知っている様子であった。具体的にどんな力があり、どのようなスキルを持つかまでは知らない様子。むしろ、それを確かめようとしているのだろう。

 そう悟ったベルスレイアは、己の三倍以上も大きい狼の魔物を素手で殴り殺した。


 狼を殴り殺す三歳児を見て、真っ当な父親ならビビる。怖がる。

 そのはずだったが、なぜかルーデウスは喜んでいた。満足げに笑い、ベルスレイアを迎え入れる。それも子供相手の態度ではない。一介の戦士として敬意を払い、言葉遣いにも変化があった。まるで格上の存在を相手するように、謙った。


 奇妙ではあったが、ベルスレイアは自分に謙る者が嫌いではなかった。故に、父の態度を受け入れた。


 この日から、ベルスレイアの待遇は変わった。表向きは、ルーデウスの娘としての待遇。裏ではフラウローゼス家の兵器扱い。最高戦力として、まるで接待でも受けるような待遇であった。

 そもそも公爵令嬢であるベルスレイアは、別に接待を受けてもおかしくは無い。だが自らの家の中でさえ、メイドや執事、父親までもが他人行儀に敬う。


 ――何かがおかしいわね。もしかして、私が吸血鬼になったことと関係がある?


 そのようなことを疑ったが、結局答えは出なかった。



 そうしてベルスレイア・フラウローゼスは、表向きは公爵令嬢として立ち振る舞うようになった。

 当然、ふさわしい振る舞いを身につける為の教育を受けることとなった。

 言葉遣いも直され、気品ある仕草を求められた。


 高貴な言葉遣いは高貴な自分に相応しいし、気品ある仕草も気品ある自分にあってしかるべき。そう考えたベルスレイアは、むしろ喜んで貴族流の教育を受けた。


 こうして、かつて清美だった少女は完全に生まれ変わり、ベルスレイア・フラウローゼスとしての新たな自分を確立していった。

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