悪役令嬢の嗜み 04
血の魔眼の使い方が判明して、ベルスレイアはさらに魔素操作の鍛錬に励んだ。
素早い魔素の移動や、一度に大量の魔素を集めるコツを掴んだ。また、魔素を常に肉体に集め続けた副産物として、肉体がより強靭に成長していた。
吸血鬼、つまり魔族であるベルスレイアは、魔素を肉体の構成に必要とする。それを膨大に取り込み続けたことで、過剰な成長を遂げた。
外見こそ生まれて間もない赤子のままであったが、すでに一歳児相当の運動能力を有していた。
当然、血の魔眼の鍛錬も忘れていない。
慎重に魔素を流し込み、周囲の情報を見る。可能な限り、見たい情報だけに注視する。その甲斐もあり、今では自分の住む屋敷全体を自在に見渡すことが可能となった。
視覚情報以上に、血の魔眼を通して見る世界は明瞭だった。広い範囲を死角無く見渡すことが可能であり、寸分の隙も無い。
これにより、ベルスレイアの情報収集は捗った。
屋敷のメイドと護衛騎士が逢瀬を繰り返していることも知った。なお、騎士の方は別のメイドともよく会っている。
情報の無意味さはともかく。ベルスレイアは、屋敷の中で知らぬことは無いと言えるほどになった。
それにより分かったことが一つある。
まず、ベルスレイアは父親に大切にされていない。
生まれてから一度も父親の顔を直接見ていないのだ。
忙しくて会いに来れないのか、とも思った。だが、魔眼によれば父親らしい人物は常に屋敷に居る。
ルーデウス・フラウローゼス。それがベルスレイアの父の名前。
聖王国サンクトブルグの公爵家当主であり、王族とも血の繋がりがある有力な貴族である。
LTOでは冷酷ということも無く、娘のベルスレイアに便宜を図る程度には関心があった。少なくとも、度々登場する程度にはベルスレイアに構っていたのである。
しかし、今のルーデウスは違う。ベルスレイアが屋敷に居ることを知りながら、会いに行こうともしない。乳母の報告ですら、面倒そうに聞き流す始末であった。
魔眼では会話内容までは分からない為、推測の交じる話ではあるが。
何にせよ、LTOとは違い、ルーデウスはベルスレイアを冷遇している様子。これが、また不可解であった。
政治的に言って、公爵令嬢であるベルスレイアは重要だ。感情面で子供を嫌っていたとしても、利用手段はいくらでもある。
そんな手駒を、わざわざ冷遇する意味があるだろうか?
やっぱりこの世界は、不自然だ。ベルスレイアは、密かに警戒心を強める。
だからこそ、ベルスレイアは屋敷内を魔眼で監視する。より注視する。自分を取り巻く不自然な状況を見抜くため。そして。
――この私に面倒をかけるクズ共を選別する。
ただそれだけを思い、二つの赤い瞳に魔素を流し込んでゆく。
この判断が、後に正解であったとベルスレイアは知ることとなる。




