鈴本清美という少女 02
その後、スポーツ大会は全ての種目の上位に一年のA組が名を連ねる、という結果となった。
全種目優勝とはいかなかった。だが、バスケでは優勝、バレーが準優勝。ソフトボールは三位決定戦を競って、清美の打順にてサヨナラ勝利で三位に。どの種目でも、清美の活躍は明らかであった。
しかし、清美は自惚れない。
「みんなが一緒に頑張ってくれるから勝てたんだよ。私一人じゃ、こんな結果にはならなかったと思う。みんな頑張ってくれたから、いい結果が残せました! ありがとうございます♪」
その日の最後。クラス全員が集まったホームルームの時間。清美は一同の前で感謝の意を込め頭を下げた。
そんな清美の姿に感動し、誰もが口々に称賛の声を送る。清美がいたから頑張れた。勝てたのは清美の頑張りがあってこそ。何より清美と一緒に戦えて楽しかった。後で一緒に写真撮ろうね。
様々な言葉が清美を取り巻く。清美はこれらを一切不快そうにせず受け止める。
「えへへ。ありがと、みんな♪ 私、こんなクラスのみんなと一緒になれて幸せだよ!」
その満面の笑みに、数知れぬクラスメイトがノックアウトされた。
だが、そんな清美の様子を忌々しげに睨む勢力もあった。
教室の片隅。校則違反ギリギリに制服を着崩し、化粧で顔を盛った少女のグループ。その中でもリーダー格の一人、高城英美里は特に鋭い目で清美を睨んでいた。
「チッ……いい子ちゃんぶりやがって」
英美里の悪意に満ちた呟きは、誰の耳にも届くことは無かった。
「それにしても、今日はすごかったわね」
放課後、清美と並んで帰路を歩く少女――遠藤雪菜が言う。
雪菜もまた、薫と同様に清美の幼馴染であり、同じ中学の出身である。一年A組のクラス委員も務めており、ホームルームでの騒ぎを沈静化する為に一役買う羽目となったのだ。
「アンタが人気者ってのは分かってるつもりだったけれど。高校になって余計にすごくなった気がするわ」
「うーん、そうかなぁ」
雪菜の言葉に、清美は首を傾げる。実際、清美には自分が人気者という感覚は無かった。自分が尽くした分だけ、みんなが応えてくれる。単にそれだけに過ぎない。自分と同じだけ尽くす気があれば、誰でも同じようになる。――というのが、清美の考えであった。
「絶対そうだよ。中学の時は、人垣なんて一枚破れば突破できてたのにさ。今じゃいくら破っても奥から奥からファンが押し寄せるぐらいだし」
雪菜とは反対の隣側を歩く少女、薫が語る。薫は子供の頃から、天使のように無垢な清美を守る為、側に立っているのが常であった。清美あるところに我あり。そう言わんばかりに、薫は清美の隣を常に占拠している。
そこにファン以上の独占欲が働いていることには、本人も気づいてはいない。
「あはは。清美さん、昔から凄かったんだね」
清美ら三人を後ろから追う少女――眉墨美緒が笑って感心する。
美緒は三人とは違い、高校からの付き合いである。清美と席が隣になった際、読んでいた本が清美の好みと合致したため、関係が始まった。
やがて本の貸し借りをするようになり。清美が美緒の家に直接本を借りに行くと言い出し。そして住所を知って実は家が近いことが分かってからは、雪菜と薫も含めた四人で登下校をするようになった。
高校からの付き合いではあるが、美緒は他のクラスメイトとは違い、清美に過度な憧れを抱くことが無い。等身大の友人付き合いが可能な数少ない人物である。
これを薫と雪菜が認めたからこそ、四人は友人関係でいられるわけでもある。