悪役令嬢の嗜み 01
清美は意識を取り戻す。
まただ。また知らない場所で目覚めてしまった。
そう思って清美は身体を動かす。
重い。自由が効かない。
不思議に思いながらもなんとか身体を起こし、辺りを見渡す。
どうやら、木枠で囲まれたベッドの上に眠っていたらしい。そして、世界のあらゆるものが大きく感じる。テーブルや椅子が部屋に見受けられるが、使っているのはどこの巨人だ、と言いたくなるほど大きい。
そこまで観察したところで、清美はベッドから出ようと試みる。立ち上がろうとするが上手くいかない。そこで木枠に掴まり、身体を支えようとする。
この時、伸ばした手がようやく清美の目に留まった。
どう見ても、赤子の手ではないか!
清美は驚いた。自分の手が若返った。いや、まさか手だけが若返ったはずがあるまい。そう考えて、色々試してみる。
「あー、うー。あうあー」
喋ることができない。
手の他に足も確認するが、やはり小さく赤子のようだ。
身体を弄ってみれば、服まで赤子用のものらしい。そして何より、オムツらしきものを穿いている感触がある。
そんな、まさか。
私、本当に転生しちゃったわけ?
清美――改め、ベルスレイアはようやく自分の状況を悟った。
その後も、ベルスレイアは自身の状況把握に努めた。
時間が経てばすぐ眠くなる。乳母と思わしき女性が度々様子を確認しに来る。そんな状況では自由に行動も出来ない。だが根気強く情報を集めた。
そして知る。自分が、本当にベルスレイア・フラウローゼスになったのだと。
不思議で幸いなことに、言葉については理解できた。日本語でない言葉を使っているのは分かるのだが、それでもなぜか理解できた。恐らくは、転生のついでにフォルトゥナが気を利かせたのだろう。と、推測するベルスレイア。
そして言語を理解できるからこそ、乳母の独り言から情報を得て、結論を導いた。
と言っても大した事ではない。乳母が誰しも自分のことを「ベルスレイア様」と呼んでいただけに過ぎない。こんな仰々しい名前、ベルスレイア・フラウローゼス以外に考えられない。故に、自分はベルスレイア・フラウローゼスに他ならないと判断した。
そして自分がベルスレイアであるのなら。
女神フォルトゥナの話も、全て本当だということになる。
転生。この世界がLTOそっくりであること。自分が打槍闘士であること。ゲームのステータスを引き継いでいること。全てが事実である。
だとすれば。ベルスレイアは、推測から自分に今現在可能なことを考える。
(――ステータスの確認って、できなかったかな)
LTOでは、念じるだけで現在の自分の情報が視界に表示されたものだ。ステータス情報はホログラムのプレート状にして、他人に見せることも可能だった。
まずは、ステータスを確認できるか試してみよう。
ベルスレイアは強く念じた。