国境防衛戦 08
後方で――白髪の少女率いる『少女兵』が暴れ、鎮圧された頃。
ようやく、前線で戦うベルスレイアの下に報告が届く。
妖狐と化したルルに騎乗し、適当に暴れては適度に味方に経験値を回していたベルスレイア。結果、戦場を転々と回ることとなり、伝令が遅れることとなってしまった。
だが、そんなベルスレイアの下にも白薔薇隊長マルダからの報告が届く。
「ベルスレイア様っ! 伝令です!!」
その声の方へと振り返り、動きを止めるベルスレイア。
「伝令? 何かあったのかしら?」
「はい。――野薔薇隊の担当区域に、想定外の敵戦力が出現。応戦するものの、野薔薇隊に負傷者多数。聖王国騎士も多数取り逃してしまったとのことです」
「命に別状は無いのね?」
「はい。治療を受ければ問題ない程度の者ばかりです」
「そう。それなら良かったわ」
酷く傷ついた者が居ないと分かり、安堵するベルスレイア。
だが、すぐに肝心な話に戻る。
「それで――想定外の敵戦力とはどういうものだったのかしら?」
「はい。それが……ベルスレイア様によく似た顔立ちの、幼い少女達で構成された兵士であった、とのことです」
その言葉に――ベルスレイアは目を見開く。
「私に? 事実なのね?」
「はい。しかも、聖王国騎士を上回る戦闘能力を発揮し――中でも隊長格と思われる白髪の少女は、野薔薇隊長と副隊長を同時に相手取って上回る相手であったとのことです」
「それは――厄介ね」
想定外の強敵にベルスレイアは顔を顰める。
聖王国の戦力程度であれば、野薔薇でも圧倒可能という想定から連れてきた戦力である。その前提を覆される敵兵というのは――ベルスレイアが、優先的に排除するべき標的とも言える。
「分かったわ。――そいつらは、私が殺す」
ベルスレイアは、断言する。
余裕の表情から、突如鋭い殺意を乗せた瞳を浮かべたベルスレイアに、マルダは驚く。と同時に、流石ベルスレイア様。と感動、陶酔する。
「それでは――ベルスレイア様。この一帯は私が補助に回りますので。ご自由にお動き下さい」
「ええ。そうさせてもらうわ。ありがとう、マルダ」
感謝の言葉を告げ、ベルスレイアはルルに乗って移動する。その姿を、マルダは感激しつつ見送った。
移動しつつ。件の白髪の少女、及び少女兵を探しながら――ベルスレイアとルルは会話する。
「ルル。貴女は今回の敵について、どう思うかしら?」
ベルスレイアが問うと、ルルは自身の考えを語る。
「聖王国の狙いそのものは分からない。でも、ベル様やリズ様を研究対象にしていた聖王国なら――そういう戦力を用意しててもおかしくは無いよね」
言って、さらにルルは細かく推測を語る。
「問題は、ベル様に似てるって言われる外見。それがもしも、意図したものでは無いのだとしたら。変装や偽装による撹乱目的ではないのなら。……竜人の卵のように、生殖活動を必要としない形で数を増やす手段を開発している可能性が考えられるね」
ベルスレイアは、その言葉に同意する。
「そうね。私の――何らかの要素を受けて作り出された者達だと思うわ」
ベルスレイアの脳裏には、女神――フォルトゥナの存在がチラついていた。
自分をこの世界に。LTOというゲームによく似た世界に転生させた存在。
その経緯から考えて。今回の件にも。聖王国にも深く関係していることは間違いない。
何よりも――ライゼンタールの私物から押収した書籍。そこに書かれてあった『魔女』という存在。
その中でも『世界の魔女』と呼ばれる存在は――仮に、それが女神フォルトゥナの事を指しているのであれば。様々な事情が説明出来るようになる。
異世界からの転生。ゲームじみた世界。全て『世界を作り変える力』を持つ者であれば、どうとでも可能な話である。
状況証拠に過ぎないが――しかし。
ベルスレイアには、フォルトゥナこそが『世界の魔女』であると思えてならない。
そして相手が『世界の魔女』であるなら。
恐らく『破壊の魔女』である自分自身。そして『運命の魔女』であるリーゼロッテ。
二人に対して、どのような企みを抱いていようともおかしくはない。
だからこそ――今回の少女兵、及び白髪の少女に対しては十分な警戒をすべきであると考えた。
――そうこう考えている内に。
血の魔眼を扱い、戦場を広く監視し続けていたベルスレイアはついに発見する。
混乱する戦場の中を。不自然な程、統率の取れた動きで撤退していく――明らかに、背丈の低い集団。
ローブ等を深く被り、姿は直接確認出来ない。だが、この状況下で異質な集団ともなれば。
「――見つけたわ。向こうよ」
当然、見逃す手はない。