国境防衛戦 05
リーゼロッテとフランルージュが会話をしている一方で。
アレスローザと、騎乗するシルフィアは。また別の場所で破壊活動を続けていた。
「……あぁ、どうしてベルスレイア様に騎乗して貰えなかったのかしら!」
リーゼロッテと大差ない不機嫌ぷりのアレスローザ。ただ、仕事に手は抜いていない。効率よく――ライゼンタールの血を引くが故の巨体を駆使して。敵を上空から踏み潰しつつ、灼熱の炎で拠点を焼き落とす。
「私と組むのが一番だと、ベル様が判断したのです。目を掛けて下さっている証拠ですよ」
シルフィアは、アレスローザの不満をいなしながら。自身も風の魔法を放ち、騎士達を切り刻む。
アレスローザの圧倒的な物量。巨体故の膨大な炎を、シルフィアの風の魔法が舞い上げ、被害を広げる。
攻めの効率としては、事実相性の良い二人であった。
また――アレスローザの巨体は、騎乗しながらも『足場』として利用可能である。
時にシルフィアは、アレスローザの背から離れて。刹那の間に戦場を駆け抜け――炎や風の魔法に対応するような騎士の首を次々と刈り取る。
そして即座に戻り、再び風の魔法を放つ。
これが馬や、並の体格の獣人、竜人であれば。シルフィアの歩法の反動で体勢を崩してしまうのだが。
アレスローザは巨体に加え、本人にも武の心得がある。シルフィアの踏み込みに応じて、耐える体勢を取ることも出来る。
お陰で、シルフィアの機動力を殺すこと無く、騎乗戦闘もこなすことが可能となっている。
二人の連携力だけでなく。こうした相性を見抜いたベルスレイアの慧眼も称賛に値するであろう。
――そうして、戦闘を難なくこなす二人の下に。
「シルフィア様ッ!! 緊急伝令ですッ!!」
声を上げつつ、騎竜と共に空から近づいて来たのは。黒薔薇総隊長、ヴェネであった。
「何事ですか?」
緊急伝令。即ち、それだけの事態が発生していることを意味する。
ベルスレイアの集めた精鋭揃いであるにも関わらず、だ。
シルフィアは即座に深刻な状況であることを悟り、険しい表情でヴェネに訊く。
「後方担当の野薔薇の部隊に――その、ベルスレイア様に『よく似た顔立ち』の少女が、農民兵に混ざって攻め込んでいるとのことです!」
「ベルスレイア様に?」
シルフィアは、伝令の荒唐無稽さに一瞬疑いの念を抱いて聞き返す。
「はい。しかも、かなりの強さであるとのこと。現在、野薔薇隊長アンジュ及び副隊長ハミィの二人が応戦しておりますが、劣勢。既に負傷者も出ているとのことです!」
だが。冗談を言っている様子ではないヴェネを見て。シルフィアもそれが事実だと納得する。
「……分かりました。アレスローザ。救援に向かいましょう」
「分かったわ。――それじゃあ、この辺りは代わりにヴェネにお願いしてもいい?」
「お任せ下さい」
シルフィアはアレスローザに声を掛けて。そしてアレスローザはヴェネにこの場を任せて。
二人は野薔薇の救援に向かうこととなる。
アレスローザは、瞬間速度こそ速くは無いものの。巨体故に、一度速度を乗せると相当な速さは出せる。
空中戦は母フランルージュに劣るが、救援の足として遅いということは無い。
当然、シルフィアが単独で走るよりも速い。瞬間的な速度ではシルフィアが圧倒しているが、長距離移動には適していない歩法である為だ。
二人は空を駆けながら、野薔薇の担当しているはずの後方を目指す。
作戦上では――薔薇達の本陣方面を野薔薇が分厚く守り、聖王国軍の左右を銀華苑が挟んでいるはず。それぞれ、散り散りになる聖王国軍を鎮圧していく手筈であった。
距離的に言えば。農民主体の徴兵部隊は野薔薇の担当区域と遠く離れている。交戦するとすれば、通常なら銀華苑とのはず。
なのに――農民に偽装した『ベルスレイア似』の少女は野薔薇を襲撃した。
明らかに、意図を持った作戦行動である。
「……恐らくですが。敵は油断ならないプランを持った上で、攻めて来ているはずです」
「でしょうね。私にもそれぐらい分かるわ。――野薔薇の被害が広がる前に、どうにかしないとねッ!!」
アレスローザは、一際力強く翼で羽撃いて。後方を目指すのであった。