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国境防衛戦 01




 聖王国からの通告後。帝国領内へと進軍した聖王国軍。

 防衛の為、準備を済ませ遅れて出撃したベルスレイア率いる防衛軍。帝国領内に僅かに入り込んだ地点にて、聖王国軍を目視確認する。


 聖王国軍、総勢推定十万人。正規の王国軍たる騎士が先頭となり、数にして推定二万。続く各領地の貴族率いる騎士が推定三万。

 その後列――装備も疎らな残る推定五万は、徴兵された平民による軍隊であった。


 屈強な帝国軍に対抗すべく。聖王国は徴兵制を導入しており、平民とはいえ一定の訓練を受け、最低限兵士として扱える程度の実力を備えている。質では劣るものの、数の上では帝国軍を圧倒する。


 この五万人、という数は。ベルスレイアの知識にある限り、聖王国が動員可能な徴兵の限界に近い。

 即ち――現在、聖王国内の戦力はほぼ全てこの場に集結していることになる。


 対して――ベルスレイアの動員した人数は僅か二千にも満たない。

 内訳は、黒薔薇二百名。白薔薇が百五十名。野薔薇と銀華苑から五百名ずつ。青薔薇が五十名。総勢、千四百五十名からなる、軍勢と呼ぶのも難しい防衛軍であった。


 但し――この防衛軍に動員された薔薇達は、ほぼ全員が精鋭中の精鋭である。輜重兵中心の野薔薇、工兵と斥候中心の銀華苑の面子でさえも。徴兵された農民程度であれば、一人で百人を相手に出来る。

 精鋭中の精鋭、黒薔薇に至っては。まさに一騎当千。王国軍の騎士を相手にしても、囲まれた所で障害にならない。

 それだけ――ベルスレイア率いる防衛軍は、圧倒的な質の高さがあった。


 即ち、この戦争は圧倒的な質と圧倒的な数の戦いである。

 防衛軍が、数に押し負けるか。王国軍が質に蹂躙されるか。


 そんな――過去に類を見ない、奇妙な戦争がついに始まる。




 王国軍は平原に陣を築き、進軍を中断し拠点の設営中である。

 そうした報告が――銀華苑の斥候隊より入り、ベルスレイアは方針を決める。


「奴らは、私達が少数であることをまだ知らない。つまり、本格的な接敵はまだ先だと思いこんでいるわ」

 言いながら――ベルスレイアは、地図上に置いた駒を動かす。

「これが王国軍の設営中の拠点。これが完成すれば、帝国領内を奴らが比較的自由に動けるようになる。そこで、ここの私達が――」

 ベルスレイアは駒を動かし、王国軍の陣地へと寄せる。


「奇襲する。向こうはこの、架空の本陣を想定しているから――」

 言って、ベルスレイアが指したのは。防衛軍より遙か後方。そこに、架空の本陣を意味する駒を置く。

「当然、本格的な戦闘行為は想定していない。多少の妨害工作に対抗する準備はあるでしょうけど。今は設営に注力しているはずよ」


 ベルスレイアは、この場に集った一同――薔薇達の隊長、副隊長に視線を向ける。

「だからこそ、今私達が本気で攻め込めば、拠点の設営は完全に失敗する。資源の喪失、軍の崩壊。数が多いからこそ、中枢を破壊されれは弱い。そして今、奴らは喉元を晒しながら、護りの要を築いている」

 王国軍を示す駒のうち、一際大きな駒。それを囲む駒を散らばらせ、隙間を開けるベルスレイア。


「黒薔薇と青薔薇で相手の本丸を速攻で叩く。野薔薇、銀華苑は退路の確保。白薔薇が敵陣地への破壊工作。この分担で行くわ」

 言いながら。ベルスレイアは防衛軍側の駒を、言葉通りに並べてゆく。

「手順はまず、黒薔薇と青薔薇による強襲。相手にこちらの本気度を悟られる前に、本丸を叩くわ。その成否に関わらず、白薔薇による破壊工作を開始。敵陣の混乱を誘う」

 ベルスレイアは、黒薔薇の駒を王国軍の大駒へとぶつける。そして、白薔薇の駒を、王国軍の散らばった駒へとぶつける。


「順当に行けば、敵は立て直しの余裕も無く、こちらへ対抗しようと打って出る。但し、これは混乱を伴った、統率の取れていない一部の騎士の行動よ。これを、野薔薇と銀華苑で蹴散らしてもらうわ」

 言うと、ベルスレイアは王国軍の駒の一部を動かす。防衛軍本陣側へと。この動きに合わせ、野薔薇と銀華苑の駒を前に出し、ぶつける。


「作戦――とは言わないわ。これは、蹂躙よ。私達が、奴らよりも遥かに優れた戦力を持っているからこそ可能なの。一人づつ捻り潰すよりも早く、王国軍を崩壊させられる。ただそれだけのプラン」

 ベルスレイアは、ここまで語った計画について語る。

「けれど――これを私が提案するのも。実現可能だと思うのも。全ては、貴女達を信頼しているからよ」


 ベルスレイアから、信頼という言葉を貰って。集った一同が表情を引き締める。

「――勝ちなさい。誰一人、欠けることを許さない。貴女達なら、それが出来ると私は分かっているわ」

 その言葉で、場の全員の士気が高まる。ベルスレイアの、独特の激励が効いていた。


「では、決行は今夜よ。それまでに各自、準備をしておきなさい」

『はいっ!!』

 一同が、声を揃えてベルスレイアに応える。こうして――夜の強襲作戦に向けて、防衛軍の準備が進んでいくこととなった。

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[気になる点] 制空権は?対抗戦力ところか届く攻撃すらなさそうなのに
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