聖王国の選択 02
帝国の方針を決める会議の後。ベルスレイアはそれぞれの薔薇達を編成、采配する為に屋敷へと戻った。
「――おかえりなさい、ベルっ!」
「ただいま、リズ!」
帰ってきたベルスレイアへと目掛けて。リーゼロッテが勢い良く飛び込み、抱きつく。ベルスレイアもこれを受け止め。抱き締めて返した。
「戦争のお話をしてきたんですよね? どうなりましたか?」
「ええ。私達で戦争を――いいえ、騒ぐだけの羽虫達を追い払いに行くことになったわ」
「じゃあ、旅行ですね!」
「そうね。リズとの旅行、楽しみだわ」
全く違う。だが、ベルスレイアにとっては、リーゼロッテと共に行くからには似たようなものである。
「さて――シルフィ。ルル。屋敷の薔薇達をみんな集めて頂戴」
ベルスレイアが呼びかけると。リーゼロッテより遅れて姿を表した二人が応える。
「分かりました、ベル様」
「他に、何かやっとくことはある?」
ルルの問いに、ベルスレイアは頷いて答える。
「フランルージュとアレスローザも王宮からこっちに来るわ。そのつもりで青薔薇達にも通達しておいて」
「分かったよ」
「あと、野薔薇と銀華苑の上位組にも集合するよう伝令を出したわ。用件は同じだから、一緒に集まっておいてね」
「りょーかい」
こうして、ベルスレイア邸に住まう薔薇達に集合がかかった。
そうして――一同が庭に集まり、整列。それほど時間は掛かっておらず。薔薇達の練度が高く、統率が取れている証であった。
「――今回集まってもらったのは外でもないわ。聖王国のクズ共が、この私へ不遜にも宣戦布告をした件についてよ」
ベルスレイアが一同に向かって語り始める。
「反撃は無論のこと。どの程度やるか。それだけが問題だったわ。何はともあれ――集まった羽虫を追い払うのは、この場に集った私の可愛い精鋭達だけに任せることになったわ」
ベルスレイアから、可愛い、精鋭と評価されて。薔薇達は信奉者であるが故に、色めき立つ。
「そこで、今日は全体の顔合わせ。それと各部隊の役割分担について話をしておくわ」
言って、ベルスレイアは一同に視線を向ける。
「まずは――そうね。それぞれの薔薇の代表、副代表は前に出なさい」
ベルスレイアに言われて――色ごとに並んだ薔薇達から。それぞれ二名づつが前へと歩み出る。
「左から順に、自己紹介なさい」
言われて、集まった薔薇達の左側――野薔薇の隊長、副隊長から自己紹介を始める。
「アタシは野薔薇の隊長、アンジュだ。Aランク冒険者だけど、今ならそんじょそこらのSランクには負けてねぇ自身があるぜ」
最初に名乗り出たのは、隊長のアンジュ。かつて、ベルスレイアに歯向かいふっ飛ばされた女性である。
「副隊長のハミィです。えっと……ベルスレイア様からは、よくひまわりの種を頂いています」
少女――ハミィが言うと。ベルスレイアはどこからともなく種を取り出し、投げる。これをハミィは自然な動作で受け取って。そのまま殻を剥いて、食べる。
妙に熟練じみた一連の流れ。誰もが困惑したが、満足そうに頷くベルスレイアを見て、口を噤んだ。
「あの、ベルはどうして彼女にひまわりの種を?」
いいや、一人いた。疑問を率直に口に出したのは、リーゼロッテだ。
「ハムスターはひまわりの種を頬張るものなのよ」
「はむ……何でしょう?」
「異界で多くの人々に愛される聖獣のようなものね」
聖獣と言われ、何だか高く評価された気がして。ハミィは天にも登る気持ちであった。実際は単なる愛玩動物のことなのだが。そしてベルスレイアは、ペットへ餌やりする感覚でしかないのだが。
知らぬが仏。本人が幸せなので問題は無い。それに、ひまわりの種も食べられる。いい事づくしである。
続いて、野薔薇の隣の集団、銀華苑の自己紹介である。
「銀華苑の管理官、メルです。そして――」
「副官のレイズよ」
名乗りを上げる二人に、ベルスレイアは目を向け、訊く。
「そっちの銀髪の子は、初めて見る顔ね」
「はい。このレイズは、最近副官まで昇進した者ですので」
「全力を尽くします、ベルスレイア様」
メルが紹介し、レイズが頭を下げる。
「実力があるなら問題ないわね。頑張りなさいな」
ベルスレイアはそれだけ行って、銀華苑の二人から目を離す。
次に名乗るのは青薔薇の二人。
「フランルージュ・リンドバーグ・ライゼンタールです」
「アレスローザ・リンドバーグ・ライゼンタールよ」
現在の帝国の代表者でもあるフランルージュ。そして娘のアレスローザ。二人のことを知っている者は多く、特に反応する者は居なかった。
そして次は黒薔薇、そして白薔薇。それぞれ代表者は一人ずつしかいない。
「黒薔薇の総隊長、ヴェネです」
「白薔薇の総隊長、マルダです。――総隊長ではありますが、実質の指揮官はルル様とシルフィア様ですので、我々のことは副官のようなものだと思って下さい」
そう行って、二人は頭を下げる。
「――さて。これで顔合わせは十分ね。次は、それぞれの役割について話しましょう」
ベルスレイアの宣言。これ以降、ベルスレイアの発案を中心とした、各部隊の役割分担が行われる。
そうして――全ての分担を終え、この日は解散となる。