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瓦解する帝国貴族 10




 書物の内容が正しいのだとすれば、現在世界に存在する魔王は約三百年の時を過ごしていることになる。

 それが現実的にありうるかどうか。それは……この際どうでも良かった。


 ベルスレイアにとって、気になるのは魔女の名前。その力。


 まずは破壊の魔女。書物に書かれた内容。そして記された歴史を鑑みて、これはベルスレイアの『破壊』スキルと同様のものと考えて間違い無かった。

 となると――ベルスレイアは、現代の『破壊の魔女』に該当する可能性が出てくる。


 そして次に運命の魔女。書物に記された、幸運と不幸を操るという記載。そして……リーゼロッテの持つ『幸運』と『不幸』のスキル。

 この関連性についても、無視することは出来ない。順当に考えるならば、リーゼロッテこそが現代の『運命の魔女』である可能性が高い。


 最後に世界の魔女。これについては、ベルスレイアの身近な人物に該当能力を持つ者は居ない。だが――誰が『世界の魔女』であるのかについては推測が出来る。

 それは、かつてベルスレイアを――鈴本清美をこの世界に転生させた張本人、女神フォルトゥナ。


 書物にあった、異界の門を開き、そこから何かを呼び出す力が真実だとすれば。地球から鈴本清美の魂を呼び出し、ベルスレイアに転生させることも可能なのではないか。

 その仮説が成り立つのなら。女神フォルトゥナこそが現代の『世界の魔女』と言えるだろう。


「……きな臭いわ。全く、本当にきな臭い」

 ベルスレイアは、不機嫌そうに眉を顰め、書物を閉じた。


 三人の魔女。そして魔王。その伝説、歴史の渦の中心に、今自分やリーゼロッテが立っている。

 そうした構図がどうにも――ベルスレイアには、整然としすぎているように思えた。

 まるで誰かが、そう整えたかのような構図。


 だったら、誰が整えたのか? 言うまでもなく、容疑者はただ一人。


 ベルスレイアという駒をここへ置くことの出来た唯一の人物。

 ――女神フォルトゥナである。


「――ベルスレイア様! ご報告がありますッ!!」

 そこまで考えたところで。ベルスレイアの執務室の扉を勢い良く開け、銀華苑幹部の一人が入室する。

「どうしたの、そんなに慌てて。少し落ち着きなさいな」

「も、もうしわけありません。ですが、緊急との事でしたので」

 幹部は焦ったような表情で言い訳をする。ベルスレイアは呆れたようにため息を吐き、報告を促す。


「いいわ。報告の方をして頂戴」

「はいっ! 実は、三件ありまして」

「なら、つまらなそうな報告から先にお願い」

「は、はい……」

 ベルスレイアに言われ、幹部は報告の為に持ってきた資料の順番を慌てて入れ替える。


「えっと……まずは、皇帝と旧帝国貴族に、ベルスレイア様との対立、あるいは強制的な従属を促した者の名前が分かりました」

「へぇ。それは?」

「現在、SSS級国際指名手配犯となっている犯罪者、通称『レグルス』という者です」

「――そう」


 ベルスレイア達が皇帝の私室を検分した時。皇帝に向けて、ベルスレイアを無理にでも手篭めにする策を提示する文章が発見された。

 差出人は不明。だが、同様の文章が他の貴族の屋敷からも発見された為、今回の騒動の真犯人として正体を探った。

 その結果が『レグルス』という国際指名手配犯の名前であった。


「で、次の報告は?」

 また新たに現れた者の名を厄介に思いながら。ベルスレイアは報告の続きを促す。

「はいっ! 続いてですが……皇帝ライゼンタールを暗殺した犯罪者『銀薔薇』が、正式にSSS級国際指名手配犯に指定されました」

「そう。それは良かったわ」

 自分の名前が売れているのだから、ベルスレイアにとっては朗報だった。一応、この言葉は対外的には皇帝を暗殺した者の指名手配が強化されて良かった、と取れなくもない。


 故に、幹部は特に指摘することもなく報告を続ける。

「そして――最後ですが、これは先程の、『銀薔薇』がSSS級に指定された件も関係してきます」

「へえ。どういうことかしら?」

 ベルスレイアが尋ねると、幹部は一度息を飲む。そして意を決したように、口を開く。


「――聖王国サンクトブルグが、我らが帝国に向けて宣戦布告。SSS級国際指名手配犯『銀薔薇』の擁護。そしてA級国際指名手配犯『ベルスレイア・フラウローゼス』の引き渡し要請の無視。さらにはSランク冒険者『ベルスレイア』の不当な囲い込み。以上三点に対する報復として、開戦も辞さない構えである。……との、発表がありました」


 幹部の報告に、ベルスレイアはニッコリと、心底楽しそうに微笑む。


「そうなの――とっても、楽しいことになりそうね」


 張り付いた笑みの裏側に、どのような感情があるのか。

 それは誰にも……ベルスレイア本人でさえ、正確には言葉に出来ないのであった。

今回の投稿で、第二章は終了となります。

基本的に隔週投稿、かつ遅筆な為ここまで時間がかかっていますが、お付き合い下さっている読者の皆様には感謝するばかりです。


次回の投稿から、第三章が開始すると共に、隔週投稿に戻らせて頂きます。

投稿予定日は9/22となっておりますので、宜しくお願いします。


そして、これからもベルスレイア・フラウローゼスの物語を読み続けたい、面白かったと思って頂けた方は、是非ブックマークや評価ポイントの方を入れて頂けると、執筆の励みになります。

今後とも宜しくお願い致します。

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