瓦解する帝国貴族 09
――皇帝ライゼンタールの死後。その私室の検分には、ベルスレイアも参加していた。
その際、新たな事実が複数確認された他……とある書物も発見され、ベルスレイアが押収した。
そのタイトルは『深淵の魔王と三人の魔女』。ベルスレイアにとって、見逃すことは出来ないものであった。
かつて帝都北部遺跡で調べた『破壊の魔女』の存在。だが、以降帝都のどんな書物を探っても、新たな情報は得られなかった。
だが――ここに来て、皇帝の私室に保管されていた、古びた革表紙の本に、手掛かりらしきものが見つかったのだ。
当然、ベルスレイアはこの内容を確認する。
本に書かれていたのは、要約すると以下のような内容である。
――魔王と魔女。深淵の谷より生まれる存在。一人の魔王と三人の魔女が生まれ、魔族と魔物の力となり、世界を災厄と混沌に包む。
――深淵の魔王。魔族と魔物の王。深淵から生まれる全ての生物を生み出し支配し、操る力を持つ。世界で最も優れた力を持つ存在である。が、三人の魔女だけは支配することが出来ない。
――世界の魔女。世界を司る魔女。現在、過去、未来の全てを自在に閲覧し、世界を作り変える力を持つ。ただし、起こりうる現象の確率を変えることは出来ない。無から有を生み出すことは出来るが、存在するものを消滅させることも出来ない。
時に異界の扉を開き、干渉し、深淵ならざる魔物を呼び出す。
――破壊の魔女。万物を破壊する力を持つ魔女。時に魔王や、他の魔女すら破壊しうるほどの力を持つ。ただし、世界そのものを壊すことは出来ない。概念に類するものや実体の無いものの破壊も不可能。人の記憶等、何らかの物質に由来する現象であれば自由に破壊出来る。
――運命の魔女。因果を操る魔女。己の死や破壊の定めさえ捻じ曲げる。世界の幸運と不幸の総量は決まっており、これを運命の総量と呼ぶ。これを変えない範疇であれば自在に幸運や不幸を起こすことも出来る。無限の幸福を手にして、無限の不幸を他人に押し付けることも出来る。
といったように、書物は魔王と三人の魔女についての説明から始まる。
その後は、ひたすら魔王、そして魔女の歴史が綴られていた。魔王と魔女は魔族、そして魔物を率いて人と争いを繰り広げた。その多くが、人の敗北の歴史であった。
だが――時折、イレギュラーが発生する。魔王の勢力が強く、人類を根絶やしにするほどの優勢になった時。魔女達は魔王を裏切る。
時に覇権を争って。時に人類へと同情して。様々な理由で、魔王と三人の魔女は争った。
結果は――互いに潰し合い、壊滅。結果として、人類が首の皮一枚で生き残る結果となる。
それでも時が経てば、また魔王が生まれる。そして人類と争い、地上から人という種を一掃。その数を激減させ、争いは終結する。
幾度となく繰り返される歴史の中。何者かの端書きが、書物の空白部分に残されていた。
『魔王は、増えすぎた人類を駆逐する為に生まれる? 魔女は暴走した魔王を抑制する為の存在?』
その推測に、ベルスレイアは強い説得力を感じた。
やがて書物の後半を過ぎると――何故か、魔女の人数が二人だけになる。歴史に登場する魔女が破壊と運命の二人だけになり、世界の魔女の名が消える。
さらに時が進むと、今度は破壊の魔女の名前が姿を消す。時折、破壊の魔女は名前が出ることもあるが、以後殆どの歴史の中で、魔女は運命ただ一人だけの場合が多かった。
そんな歴史が、幾度となく繰り返される。世界の魔女不在の戦争。人類の敗北。魔王の暴走。魔女の離反。
そして……書物の終盤。直近二回分の、魔王と魔女の歴史について。
前々回の魔王は、人類との共存の道を模索したという。だが、それを拒否した人類により魔女二人が殺される。これに怒り狂った魔王により、人類は苛烈な攻撃を受ける。数を減らし、魔王は活動を停止。
そして前回の歴史。活動を停止したはずの前々回の魔王が、活動を再開。今度はただの一人も魔女が生まれることもなく、人類の敗北。再び魔王は活動を停止。
――そして、現在に至る。