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瓦解する帝国貴族 08




 ――そうして。皇帝ライゼンタールとベルスレイアの戦いは、ベルスレイアの勝利という形で終幕を迎えた。

 帝都は戦闘の余波を受け、あちこちが破壊された。が、ベルスレイアの配下に当たる組織の迅速な行動により、被害は最小限に抑えられた。


 火災は真っ先に消火され、要救助者も迅速に救助された。倒壊、焼失した家屋は、ベルスレイアの資材、及びライゼンタールの保持していた資産から金銭にて補償された。また、建て直しも迅速に行われ、路頭に迷う人が出ることは無かった。

 最終的な犠牲者は、住民の正確な把握の難しい、貧困層の住まう地域から僅か数十名。それ以外では、間接的な人間同士のトラブルによる負傷者のみとなった。


 そうして帝都の復興がある程度進んだ頃になり。皇帝ライゼンタールの死亡が発表された。

 死因は暗殺。――帝国転覆を狙った『銀薔薇』の企みにより、帝都上空に異界の龍が召喚された。その騒動に乗じて、皇帝は暗殺された。……という筋書きとなった。


 皇帝が居なくなり、新たにフランルージュが帝位に就いた。女皇フランルージュを頂点とした、新たな政治体制を作り上げることで帝国は再生。実際の運営は貴族達にほぼ任せ、皇帝、女皇は象徴として君臨。政治には基本的に口出しをしないという形式を取ることとなった。

 なお――ベルスレイアの暴力がこの状況を作り上げた点は、当然貴族達も承知している。かつてを超える権力を握っていても、ベルスレイアの意向に逆らう者は当然皆無であった。


 また――帝都を襲った龍を撃退した功績により、ベルスレイアは帝国貴族として叙爵。公爵となり、家名はフラウローゼスを名乗る。こうして、帝国でも正式にベルスレイア・フラウローゼスと本名を名乗ることになる。


 帝国における役職も、軍部の大総帥という立場を貰う。基本的には、総帥以下に仕事を任せる。一方で、自分自身の直属の軍を編成する権限を与えられた。これに『黒薔薇』と『青薔薇』が組み込まれ、ベルスレイアの直属の配下が国の軍事力の一角を担う形にもなった。

 そして『青薔薇』のトップは、依然としてフランルージュである。肩書は隊長から総大将に変わってこそいるが。


 つまり――実質的に、ベルスレイアが帝国を支配していることが、外部からも分かる形になっている。

 こうして名実ともに、帝国という国を手中に収めるに至ったのである。



 ――そしてこの日。ベルスレイアは『銀華苑』の執務室を訪れていた。未だに復興の続く帝都。特に貧民層の住まう区画は、実態が正確に把握されておらず、復興が進まないのだ。

 そのため、炊き出し等の支援を行いつつ、区画整理や就職支援等、経済対策も同時に行っている。いずれは、貧民層と呼ばれるような国民を無くす為に。


「――それと、ベルスレイア様。第八区画の市民から、食糧支援への不満が高まっているようです」

 銀華苑の幹部が、報告の言葉を口にする。この場合、第八区画の市民というのがかつての貧民層の住民を指している。現在は第八区画と新たに名前を与えられ、住民全て戸籍を登録し、管理可能になっている。


「理由と、状況を詳しくお願い」

 ベルスレイアが、幹部に問う。

「他の区画と比べて、復興が進まないことに苛立っているようです。未だに被差別意識が強く、原因は国が対策を後回しにしているからだ、との声が多く上がっています」

 実際には、貧民層の支援政策には多額の資金が注ぎ込まれている。ベルスレイアの私財も投入されている為、むしろ他区画よりも優遇されていると言っていい。


「そうね。なら、もう少し経済支援を強化しましょう。住まいと仕事、食べる物を十分に与えれば、愚劣で知能の低い弱者共などすぐに黙るわ」

 馬鹿にするような口調でありながら、対処策は極めて温情に満ち溢れたものであった。

 これに、幹部が眉を顰める。

「……ベルスレイア様のご厚意を理解できない屑共に、そこまでする必要があるのでしょうか?」


 銀華苑の幹部である以上、ベルスレイアの信者の一員でもある。だからこそ、こうして過激な思想、反応を見せる。

 だが、ベルスレイアは頷いてから幹部を諭すように語る。

「そんな屑でも、この私の所有物よ。許されざる行いをしたわけでもないのなら、相手をする価値など無いわ。――石ころばかりでも、磨いてみれば宝石のように輝くものよ。紙切れと鉄くずと引き換えにそれが出来るのなら、ためらう必要は無いわ」

 言って、ベルスレイアは幹部の額に手を翳す。そして少しだけ魔素を流すと――幹部は身体に走った感覚に顔を赤らめさせる。


「わ、わかりましたっ。では、ベルスレイア様の指示通りに対処させていただきますっ!」

「ええ。具体的な手段については任せるわ」

「はいっ! では、報告は以上になります!」

 そうして――報告は終わり、幹部は執務室から退室する。


「――さて。仕事は程々にして、今日はこれを読まないとね」

 幹部の退室を確認したベルスレイアは、机に置かれた一冊の本を手に取る。


 その本のタイトルには――『深淵の魔王と三人の魔女』と書かれていた。

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