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瓦解する帝国貴族 07




「――砕けなさいッ!!」

 ベルスレイアは打槍を振るう。同時に――打槍の杭を収納魔法を使い入れ替え、ドリル状の形状をしたものに変える。

 そして、打突。ドシュウッ! と重い稼働音と共に、ドリル状の杭が打ち出される。

「穿てェェエッ!!」

 そして――杭は旋回を始め、打槍から射出される。


 分身と本体、両方から打槍のドリルが放たれ、龍の額に鎮座する石へと直進する。

 二つのドリルが衝突すると――光が弾ける。

 桁外れに上昇した威力と共に。ベルスレイアの昂ぶった感情が、無意識のうちに『破壊』スキルを使用していた。

 その力と共に、打槍から射出されたドリル。合計威力15867の攻撃が、龍の額を砕く。砕かれた先から、その肉片、破片が粉砕、そして『破壊』され、光の粉に変わって散ってゆく。


 そのままドリルは荒れ狂う竜巻のように、うねりながら龍の肉体を引き裂き突き進む。砕かれた端から、弾けて光に変わって消滅してゆく。圧倒的な威力の前に、たかが生命力四桁の生物など、塵に等しかった。


 弾けた光の粉も巻き込み、螺旋の嵐は進む。龍の肉体を全て破壊しつくして、それでもなお収まらない。

 最後には――ドリルは光の奔流となって、高すぎる破壊力により自壊しながら天へと登っていった。


 空を覆う赤黒い雲を貫き、蹴散らし、青空を取り返す。それでもなお高く登り、本来の空に浮かんでいた雲も消し飛ばして。

 そうして――空に還り、弾けた。


 その光は、第二の太陽とも呼べる程の輝きを放っていた。



「……ふぅ」

 息を吐くベルスレイア。だがすぐに、地上へ目を向ける。自身も黄金色の火球を受け、全身傷だらけではある。が、それよりも帝都の安否が気に掛かった。

「あら」

 だが、すぐにそれが杞憂であると悟った。


 帝都では――既に消火作業、救助作業が始まっていた。

 これまでベルスレイアが育て上げてきた者達――『白薔薇』に『黒薔薇』、そして『銀華苑』や『野薔薇』、『青薔薇』の者達までが、帝都と住まう人々を護る為に動き出していた。

 それはベルスレイアの所有物だから。主たる人物の所有物が、価値を落とすことなど許されないから。――という、傲慢な考えから始まった行為ではあった。


 だが――高貴な、あるいは強き者達が、弱き人々の為に力を尽くす様は、どこか美しくもあった。

 燃える黄金の炎を消すために、水の魔法を使い消火に走り回る者。崩れた木造の家屋を片付ける者。爆風や炎を受けて負傷した者。家が燃え行き場を失った者の保護に奔走する者。

 様々な形で、ベルスレイアの所有する大切な者達が動き回っていた。


 そうした光景を見て。ベルスレイアは――言葉にし難い、奇妙な思いが胸の中に湧いてくるのを感じていた。

 けれど、この感情に名前を付けてはいけない、と。どこか恐れるような考えで、気持ちに蓋をする。

「――仕方ないわね。この私が、直々に手伝ってあげようかしら」

 等と独り言を呟いて。不遜な笑みを浮かべると、ゆっくりと地上へ――帝都へと舞い降りてゆく。


 肉体の損傷、そして生命力の低下を『自然治癒』の効果で癒やしながら滑空する。やがて、地上からもベルスレイアの姿がはっきりと見える高度が近づく。焼けてボロボロになった服も、収納魔法の中から新しいものを取り出し、入れ替えるように着替える。

 まるで服が再生したかのように、一瞬で普段どおりの姿に戻る。多少頬や髪が煤けている以外は、いつものベルスレイアの姿であった。


「――ベルぅ~っ! おかえりなさぁ~いっ!!」

 そして――地上から、リーゼロッテが手を振りながら、大声でベルスレイアを迎え入れる。

「――ただいま! リズっ!!」

 ベルスレイアもまた、リーゼロッテの名を呼ぶ。そして、目の前に目掛けて血の翼を羽ばたかせ、舞い降りる。


 そのまま勢いを残し、リーゼロッテに飛び付き抱き上げるベルスレイア。

「さあ。ひと仕事終われば、また次の仕事よ」

 そして、その場の三人、リーゼロッテ、シルフィア、ルルに向かって言う。

「次は、何をするんですか?」

 リーゼロッテは、首を傾げてベルスレイアに問う。これにベルスレイアは、捻くれた、いつも通りの言い回しで答える。


「お手入れよ」

 その言葉に、どこか優しげな笑みを零すシルフィアとルル。

「図体だけが取り柄の蛇に、私の所有物が傷つけられてしまったわ。だから修理、修繕、清掃をしてあげましょう。――きっと、リズの治癒魔法が役に立つこともあるはずよ」

「私が、ベルの役に立てるんですか?」

 リーゼロッテは、首を傾げたまま尋ねる。


「ええ。リズにしか出来ないことがあるの。お願いできるかしら」

「もちろんです! がんばりますっ!」

 リーゼロッテは心底嬉しそうに、ガッツポーズをしながら意気を示すのだった。

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