瓦解する帝国貴族 05
血の翼を羽ばたかせ、自らの魔法の爆風を掴み空を舞うベルスレイア。龍と化した皇帝の、眼前まで飛翔する。
「お待たせしたわ。始めましょうか」
言って――闇属性の魔法を、龍へと向かって放つ。
暗黒色の魔力の羽根を、まるで弾丸のような速さで無数に放つベルスレイア。これに、龍は炎の球体を生み出して対抗。同様に、ベルスレイアに向かって放つ。
空中で炎の球体と闇色の羽根はぶつかり合い、相殺する。だが、一部の相殺を免れたものは相手へと届く。
闇色の羽根は――龍の表面、鱗に当たり弾けて消える。ダメージは通らず。一方、ベルスレイアは翼を操り、滑空し、炎の球体を避ける。
「――チッ。何の工夫もしなければ、さすがにダメージは通らないわね」
ベルスレイアは舌打ちし、龍のどこか得意げな面を横目で見ながら炎の球体を回避し続ける。
ダメージが通らないのも、ベルスレイアのステータスでは当然のことであった。
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名前:ベルスレイア・フラウローゼス(Bellsreia Flaurozes)
種族:吸血鬼
職業:遊撃騎兵
レベル:19
生命力:487
攻撃力:230
魔法力:219
技術力:257
敏捷性:243
防御力:184
抵抗力:203
運命力:256
武器練度:剣S 槍S 斧S 弓S 暗器S 打槍X 拳S 杖S
魔法練度:炎X 雷S 光A 闇X
スキル:血統 覇者の魂 カリスマ 死の呪い 悪運の呪い
剛闘気 巧闘気 讐闘気 分闘気
精強 技巧 俊足 回避 極限 灼熱
広域優位 先手必勝 暗視 守護 孤高 同体攻撃
先制 消耗軽減 根性
人類特攻 魔族特攻 飛行特攻 獣人特攻 魔物特攻
天空の守護 飛剣 新月 望月 聖域
血の呪い 血の解錠 血の翼 血の魔眼
赤い月 自然治癒 収納魔法 魔素操作
潜影 操影 覚醒 破壊
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帝国内の貴族の粛清により、更にレベルを上げたベルスレイア。ステータスも当然上がっている。が、龍のステータスには未だに届いていない。
ベルスレイアの魔法力が219。そして装備、打槍パンクトネイルが賢者の石を素材にしている為、戦闘時の魔法力にプラス20の補正。さらに、使った黒い羽根の魔法の威力は、血の魔眼を使って威力特化で編み出した為さらにプラス30。最終的な魔法攻撃の威力は269となる。
一方、龍の抵抗力は265もあり、更に『護りの祈り』の効果によりプラス5。この時点で既に数値的にはベルスレイアの魔法攻撃の威力と同等。
更には、龍の鱗には人間で言う防具と同等の効果がある。その為、攻撃を食らった時の実際の抵抗力はさらに上がる。
故に、ベルスレイアの魔法攻撃ではダメージを通せないのであった。
だが――これはあくまでも、ベルスレイアのスキルが一切発動していない場合の話になる。
「じゃあ……次は少し、本気を出すわよッ!!」
身を翻して、ベルスレイアは龍へと再び向かってゆく。速度を上げ、炎の球体による攻撃を置き去りにする。
そして再び、翼から闇色の羽根の魔法を放ち、攻撃する。
今回の攻撃は、先程は発動していなかったスキルを、しっかり発動させた上での攻撃である。
まずは『広域優位』の発動。広い空間での戦闘時に、戦闘能力を上昇させる。戦闘能力とは攻撃力と魔法力、そして技術力と敏捷性である。そしてこのスキルは広域戦闘の上位スキルである為、効果はプラス10。つまり魔法力が229になる。
同様の効果があるスキルが、他にも『先手必勝』『暗視』『守護』『孤高』『同体攻撃』の五つある。この内『暗視』と『守護』、そして『同体攻撃』は発動条件を満たしておらず、発動不可。実際にベルスレイアが使えるスキルは『先手必勝』『孤高』となる。合計でプラス20の強化となり、魔法力はこれで249に到達する。
これにパンクトネイルと魔法の威力を合わせ、合計299の威力を持った魔法攻撃。ステータス上では、龍の抵抗力も上回った闇の羽根が翔ぶ。
そして、龍の鱗へと次々に着弾。炸裂し、闇色の爆発を起こす。ある鱗は無傷、ある鱗は砕ける、といった状態で、効果はまちまちとなった。
これは、命中率による命中判定による現象である。LTO、そしてこの世界における命中とは、ダメージ計算処理の発生を意味する。攻撃の物質的な接触時に、命中判定が発生すれば、ダメージ計算処理も発生する。そして結果に応じて、攻撃を受けた側はダメージを負う。
そして、命中判定に失敗した場合はダメージ計算処理は発生しない。結果として、物理的な接触以上の破壊は起こらない。
つまり、壊れた鱗は魔法が『命中』し、ダメージ計算処理によって大きなダメージを負い、壊れたのである。一方で無傷の鱗は、魔法が命中しておらず、闇色の爆破による風圧以外の損傷を負っていない。
前回のスキル未発動時は、ダメージ計算処理によりダメージが発生しなかった。故に、鱗はダメージを負うことが無かった。
このように、ダメージが無い場合は物理的接触による損傷も、ダメージ量に合わせて低減される。命中の成否に関わらず、ベルスレイアが剣で斬りつけられても、格下からはダメージも肉体的損傷も受けないのと同じ現象である。
だが今回――スキルによる補強を受けたベルスレイアの魔法は、龍の鱗を傷つけた。これは、このまま攻撃を続ければ、生命力を削りきり、殺すことも可能であることを意味する。
龍の肉体は巨大であるため、肉体の一部分に攻撃をしたとしても、削ることの可能な生命力も一部分だけとなる。その為、本当にこの攻撃で龍を殺すなら、全身くまなく攻撃しなければならない。が、ベルスレイアには十分に可能なことでもある。
「――さて、お前はいつまで生きていられるのかしら?」
ベルスレイアはニヤリ、と笑みを浮かべて。翼を羽ばたかせ、三度闇色の羽根による攻撃を開始するのであった。