瓦解する帝国貴族 02
帝国貴族が瓦解してゆく中のある日。――皇帝ライゼンタールは、最終通告の為にベルスレイアを呼び出した。これ以上敵対するようなら、力でもって排除すると。ベルスレイア以外の全てを破壊し、本人を無理やり手篭めにすると。
つまり強硬手段に出るぞ、と脅す為の呼び出しである。
使者を送り、謁見の日が来る。ライゼンタールは玉座の間へと向かうが――様子が普段とは違うことに気づく。
近衛騎士の護衛の中、皇帝だけが使う通路を通り、玉座の間へと向かうのが通常である。しかしこの日、近衛騎士は一人しか居なかった。そして近衛騎士が向かうのも、皇帝だけが使う通路では無かった。
「おい。道を間違っているぞ」
「……いえ。こちらで問題ありません」
近衛騎士は、どこか怯えるような態度でもあった。不審に思いながらも、皇帝が一人で歩くわけにもいかず。近衛騎士の進む通りにさせた。
そして――辿り着いたのは、玉座の間への正面入口。一般の、謁見する側の人間が案内される扉の前であった。
本来なら、皇帝は裏側にある皇帝だけの為にある扉を使う。このような場所から出入りするなど、ありえないことだった。
「……お進みください」
だと言うのに、近衛騎士は間違いに気付いた様子も無く、頑なに進ませようとする。これも、本来なら近衛騎士の方が扉を開けるべき場面であった。
ここで、ようやく皇帝も状況を理解する。ここまで露骨に、侮辱するような扱いを受けて。誰の差し金でこうなったのか理解した。
「……くッ」
零れそうになる悪態を抑え込み、皇帝は自ら扉を開けた。
その先に見えたのは――先に玉座の間に到着し、あろうことか玉座に腰を掛け、皇帝を待ち構えるベルスレイアの姿であった。
「遅いわよ。早くなさいな」
ベルスレイアの煽り言葉。これにも耐えながら、皇帝は玉座の間へと入室する。
玉座の間には、ベルスレイアの他にも配下らしき者――白薔薇、黒薔薇の面々が立ち並んでいた。そしてベルスレイアの傍らには、仕える騎士か何かのような格好をしたフランルージュとアレスローザ。
「……お前達。どういうつもりだ?」
皇帝は二人に声を掛ける。だが、二人は何も答えない。
「いいわよ、答えなさい」
ベルスレイアが許可を出した。そこでようやく、フランルージュが口を開く。
「私達は、単により強い人の物となった。ただそれだけのことです」
「余よりも、その小娘の方が良いと?」
「ええ。アインヘリウス、貴方は私の番に相応しくない」
フランルージュの言葉に、皇帝は顔を顰めた。
「お母様の言う通りです」
続けて、アレスローザが口を開く。
「貴方をお父様と慕った過去も、もはや恥でしかありません! 私にとっての番はベルスレイア様、ただ一人ッ!」
竜人の雌は、自分の生んだ卵により強き者の発する魔素を浴びせ、孵す。そうした生態から、父親が同時に番の意味も持つ場合が多くなる。
アレスローザの場合も同様で、以前は父たる皇帝を番として認めていた。だが、今やその地位はベルスレイアが奪い去った。
「――そうか。ならばもう、何も言わぬ」
ここで、皇帝は何故かスッキリとした笑みを浮かべる。妻と娘――己の番を奪われたにもかかわらず。不可解な表情を浮かべた。
「最後に問おう、ベルスレイアよ」
そして、ベルスレイアに向かって問いかける。
「余の番となれ。そうすれば、全てを許そう」
と――この期に及んで尚、不遜な言葉を口にした。
一挙連続投稿最終日です。
宜しければページ下部の方から、他著者の一挙連続投稿作品までお読み頂けると有り難く思います。
また、当作品はいくらかストックがありますので、それが少なくなるまでは毎日投稿を続けさせて頂きたいと思います。
ストックが少なくなれば、また元通り隔週投稿に戻らせて頂きます。