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女神フォルトゥナ 03




 要するに、本当に転生するらしい。

 ひとまず清美は、前提として転生するという事実を受け入れた。

 確かに思い返せば、自分の死に様は万が一にも生存することはありえない有様だった。ここは死後の魂の世界。女神を自称する女は、単に神であるが為の非常識が原因で頭がおかしく見えるだけ。

 そうやって、無理に自分を納得させることで話についていく。


 そして、清美は『もしもLTOの世界に自分が転生するとしたら』という妄想を頼りに会話をすることにした。

「本当にLTOの世界に転生できるなら、私としても嬉しいかな。ゲームで慣れた世界だから、違和感なく馴染めそうだし。それに攻略法も詳しく調べて知っているから、けっこうやりたい放題できそう」

 自由な人生を送る場所としては、この上なくふさわしい。と清美は考えた。


「喜んでいただけるなら何よりです」

 フォルトゥナは微笑みながら、さらに説明を続ける。

「転生先は、清美さんのお気に入りだったNPCの一人……聖王国サンクトブルグの公爵令嬢、ベルスレイア・フラウローゼスに設定してあります。これは、高い身分のキャラクターであれば自由に生きやすいだろうという理由があっての選択です」


 清美は、フォルトゥナの提案に内心驚く。

 ベルスレイア・フラウローゼス。それはLTOの中でも有名かつ人気のあったNPCである。しかもプレイヤーの味方ではない。

 そう、ベルスレイアはいわゆる悪役令嬢――つまり、プレイヤーの敵側に属するキャラクターなのだ。


 自信家であり、正々堂々とした悪役であったベルスレイア。発言の数々がどれも特徴的で、可愛さや悪辣さよりも、格好良さや独特のナルシズムが強調されていた。

 キャラクターデザインの秀逸さもあって、プレイヤーの誰もが惚れ込み、一躍人気キャラクターとなった。


 そのベルスレイアに、実は清美はシンパシーのようなものを感じていた。

 自己中心的な思想。自分は凄い、強い、最高の存在であるという圧倒的な自信。大言壮語を現実のものにする実力。どれもが清美にとって共感しうるものであった。

 まあ私の方が凄いんだけどね、と思わず胸中で自惚れを競ったのも数知れない。

 それほどまでに、清美にとっては特別なキャラクターだったのだ。ベルスレイア・フラウローゼスという悪役令嬢は。


「……ベルスレイアになること自体は、異存無いよ」

 清美は、自分が自分ではなく、ベルスレイアという他人となることをあっさり受け入れた。

 これがベルスレイア以外であれば、こうはいかなかった。だが、自身と同じような自惚れ、思想を持つのがベルスレイアという存在だ。受け入れるのは、そう難しい話ではなかった。


だが、清美は不愉快だった。この女はどこまで知っているのか。ベルスレイア・フラウローゼスが好きなキャラクターだったことまで知っている。恐るべき相手だと言える。何しろ、その感情については現実でも、ゲームの世界でも表現したことが無いのだから。

 ずっと清美が頭の中に抱えていた秘密の好意。それがベルスレイアへの感情であった。それを知られている、というのは愉快な話ではない。

 この女が、本当に女神であるとしても。

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