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禁忌と亡国 07




「――知らない天井だ」

 見知らぬ部屋、見知らぬベッドの上。意識を取り戻したアレスローザは、まずそう呟いた。

「……ここはベルスレイア様のお屋敷の一室ですよ」

 傍らに座り、見守っていたフランルージュが答えた。


「お母様……私は、負けたのですね」

「ええ。完膚なきまでに」

 母の言葉に、アレスローザはがくりと項垂れる。

「……申し訳ございません。みなを開放しようと思っての決闘でした。しかし、結果はむしろ、みなを縛り付けるような形になってしまい――」

「気にすることはありませんよ、アレスローザ」

 フランルージュは、娘の謝罪を遮り、語る。


「あの人は、強すぎました。理外の力を持つ怪物だったのですから。貴女が勝てなかったことは、決して恥ではありません」

「……はい」

「それに、誰も貴女を恨んでなどいません。むしろ……感謝をしているはずですよ」

「えっ?」

 アレスローザは意外な言葉に驚き、首を傾げる。


「元より、竜人は強き者を尊ぶものです。あの決闘があったからこそ、ベルスレイア様の力を私達は理解できました」

「あの、お母様」

「そして貴女を一撃で昏倒させた拳。あれを見て、心が動かない竜人など居ません」

 アレスローザが問おうとするが、フランルージュはどこか興奮した様子で一方的に語る。

 どうしてあの無礼者を様付けで呼ぶのか。強き者を尊ぶとはどういうことか。聞きたいことはあるものの、それを母が許してはくれない。


「あの力はまるで……いえ、間違いなくあの人、アインヘリウスを超える程のものです。そのような力を前に、屈服せぬ道理がありません」

「く、屈服ですか」

「ええ。アレスローザ、貴女も感じるでしょう? 思い出してみなさい。ベルスレイア様に殴られ、意識を失う瞬間のことを」

 言われて、アレスローザは思い返す。ベルスレイアの攻撃を受けた瞬間。殺されるのだと自覚した。死をはっきりと意識した。そして――にも関わらず、どこか興奮していた。自分を圧倒する力強い存在に、胸の内が熱くなった。


「……はい。なんだか、どきどきします」

「そうでしょう? ああ、私も貴女のように、ベルスレイア様に殴られてみたいわっ!」

 恍惚の表情を浮かべ、フランルージュは語る。

 普段のアレスローザなら、こんな母の言動に違和感を覚え、反抗しただろう。しかし今は、自分の内側にも母と同じ衝動が眠っているのだと感覚的に理解できていた。故に、反抗する気は置きない。


 むしろ――圧倒的な差を直接この身に刻まれたという事実に、じくじくとお腹の奥が熱くなるようにも感じていた。



 ――妖精族竜人種。彼ら彼女らの生態には幾つかの特徴がある。

 獣人族のように、肉体を変化させる能力を持つこと。主に竜種の姿を取ること。宝玉と呼ばれる媒体を使えば、複数種類の竜に変化することも可能ということ。

 そして――雌の竜人は、より強き者との交配を求めたがること。

 竜人種は卵生の妖精族であり、誕生に必要なのは雄の精ではなく、多量の魔素であること。


 その為――より強い番を見つけるため、非常に好戦的である。一方で、敗北した時は従順になる。

 そうしてより濃厚な敗北、被虐、暴力を通じて、より優れた番を選別する。

 要するに、竜人種の雌は種族単位の被虐嗜好者なのだ。


 今回、ベルスレイアは誰の目にも明らかな程の力を示した。その圧倒的な暴力性に、全ての皇后、皇女が本能的に屈服した。ベルスレイアの暴力に晒されることを求め、番として認めた。

 故にベルスレイアの要求は何でも受け入れる。ベルスレイアの為ならば何でもやる。


 結果として――ベルスレイアの狙い通り、竜人による騎獣部隊の結成に至った。

 中でも高い実力も持っていたフランルージュが隊長。二番手の実力者であるアレスローザが副隊長という座に付いた。

 この部隊の名は、隊長と副隊長の瞳の蒼――そして竜になった時の暗い蒼の鱗から取って『青薔薇』と名付けられた。

 そうして――皇族すらベルスレイアの手に落ちた。


 ベルスレイアの身内、リーゼロッテやシルフィア、ルルに手を出すという禁忌を犯した皇帝ライゼンタール。後はもう、亡国の主となる道を転がり落ちてゆくばかり。

 逃げ道も、逆らう手段も――皇族という駒さえ奪われた今、残されては居なかった。

一挙連続投稿七日目です。


宜しければページ下部の方から、他著者の一挙連続投稿作品までお読み頂けると有り難く思います。

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