禁忌と亡国 06
数分掛けて、ベルスレイアはフランルージュへと魔素を流し込んだ。廃人にする程の強さではなかったが、洗脳に使うものとしては強めであった。
それほどの濃厚な魔素を脳に浴びせられて。フランルージュは息も絶え絶えに。意識は朦朧としていた。
「――もう一度訊くわ」
ベルスレイアが、フランルージュに問う。
「騎獣として、私の為に働いてくれるわね?」
そう問われた瞬間。フランルージュの心に、愛情のようなものが湧き上がる。この人に尽くしたい。この人のためになりたい。この人の側に居たい。この人の――あの不思議な感覚に、包まれていたい。
「……はい、分かりました」
胸中に湧き上がる衝動のまま。フランルージュは、ほぼ無意識にそう呟いて返した。
この反応に、ベルスレイアは満足げに頷く。そしてフランルージュから手を離し、開放する。名残り惜しそうに、フランルージュが視線でベルスレイアの手を追う。
「――お母様ッ! お気を確かにッ!!」
その時、一人の皇女が声を上げた。声を受けて、フランルージュがハッとする。
「あ……アレスローザ」
気不味そうに、フランルージュは皇女の方へと視線を向け、呟く。
ベルスレイアも追って、皇女に目を向ける。その顔立ちはフランルージュによく似ており、血が繋がっているのだろうと推測される。そして、ステータスも。
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名前:アレスローザ・リンドバーグ・ライゼンタール(Aresrosa Lindberg Reisenthel)
種族:妖精族竜人種
職業:聖騎士
レベル:15
生命力:40
攻撃力:25
魔法力:22
技術力:21
敏捷性:20
防御力:28
抵抗力:23
運命力:19
武器練度:剣B
魔法練度:炎A
スキル:血統 カリスマ 守護 同体攻撃 聖域
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まるでフランルージュをお手本に成長したかのようなステータスであった。
「どうしたのかしら? 文句でもあって?」
「当然です! お母様を外道の術で籠絡し、無理やり言うことを聞かせるなんて! 許しがたい行い! 認めるわけにはいきませんッ!」
面白いものを見つけた、とでも言うかのような笑みをベルスレイアは浮かべる。だが、気づかずに皇女アレスローザは続ける。
「要求があるなら、正々堂々と申しなさい! 竜人族は力を尊ぶ種族! 卑怯な手口に頼らず、力で私達を屈服させてから要求なさいッ!!」
「えっと、つまりこの私と勝負がしたいということかしら?」
「ええいいでしょう、その勝負、受けて立ちます! 貴女が勝てば、要求を飲みましょう! しかし、私が勝った場合は、みなを皇宮へと返してもらいますッ!」
「ふふっ。いいわよ。お前の望み通り、正々堂々勝負してあげる。認めてくれるまで、頑張らせてもらうわ」
意味ありげに笑みを深め、ベルスレイアは言った。
――そうして、ベルスレイアとアレスローザの決闘の手筈が整う。影の中では狭いため、全員がベルスレイアの屋敷の庭に出る。白薔薇や黒薔薇、皇女皇后の立ち会いの元、決闘は行われる。
アレスローザは幸い、屋敷にて身内を護るつもりであったのか、完全武装していた。後は、ベルスレイアが装備を整えれば準備完了である。
「――私はこれだけで良いわよ」
そして、ベルスレイアは何の装備もせず。自分の拳だけを指差し、言ってみせる。
「可愛い子に傷を付けたくはないもの」
言って、アレスローザに煽るように言ってみせる。
すると――卑怯にも、アレスローザは怒りのあまり、決闘開始の合図も無いままにベルスレイアへと襲いかかる。煽り耐性があまりにも低すぎたのだ。
突然の奇襲。これには対処できまい、とアレスローザは勝ったつもりでいた。だが……次の瞬間には確信が脆く崩れ去る。
「あら、もう開始でいいの?」
ベルスレイアが、アレスローザの剣を手で『握って』抑え込んだ為だ。
白刃取りでは無く、まるで棒でも掴むかのように。刃を手で握り、出血もしないベルスレイア。その姿を見て、ようやく思い知るアレスローザ。
あ……この人、ステータスが高い、と。
間抜けにも、呆気にとられるアレスローザ。その顔面を、ベルスレイアは拳で正確に貫く。
「ふべっ――!!」
アレスローザは、声を上げて吹き飛ぶ。数回地面を跳ね、転がり、人垣に衝突して止まる。受け止めたのは、こうなることを予期して動いた白薔薇達。
「――生意気な美少女の顔面を殴り飛ばすって、けっこう楽しくて好きなのよ、私」
ベルスレイアは、機嫌良さげに言う。前世の記憶……清美であった頃のトラウマが転じて生まれた性癖の一つであった。
一挙連続投稿六日目です。
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