禁忌と亡国 05
騎竜。それは、主に竜騎士やその上級職に該当する者が騎乗する魔物の事を指す。
職業にはそれぞれ、様々な適性がある。武器適性に魔法適性。そして、防具適性。武器適性は、該当する武器を扱う場合のダメージ計算を優遇し、魔法適性も同様の処理が成される。それぞれ武器練度、魔法練度の高さによって補正も大きくなる。この点は、LTOでもこの世界でも共通であると、ベルスレイアは確認済みであった。
そして、LTOとこの世界の両方に存在するシステムの一つに、防具適性というものがある。該当する属性の装備を身に着けた場合、ダメージ計算に補正がかかり優遇される。
基本的には職業毎に固有であり、転職した場合は引き継がれない。
そして防具適性の中には、厳密には防具には該当しないものも存在する。乗馬、魔物騎乗がそれである。
この二つは例外であり、転職した場合に引き継がれる。乗馬属性のある職業を経験すれば、以後どの職業に転職しても、乗馬属性を持つことになる。
そして――乗馬属性を持つ場合、文字通り乗馬した状態で、ダメージ計算に優位な補正がかかる。
これと同じ現象が魔物騎乗属性でも起こる。この属性を持つ者は、魔物に騎乗した場合に補正がかかる。職業で言えば、竜騎士や天馬騎士が該当する。名前こそ竜や天馬を指定しているが、実は魔物であれば何でも同じ補正を得られる、というのがLTO、そしてこの世界のシステムであった。
ベルスレイアは、このシステムが純粋な魔物や馬だけでなく、他の生物にも適用されることを知っていた。
実例として、ベルスレイアは乗馬属性を既に保持している。その状態で、妖狐姿になったルルに騎乗すると、ダメージ計算に補正がかかった。
つまり、乗馬スキルは馬でなくとも獣であれば発動する。さらには、獣の状態であれば獣人であっても発動するのだ。
そこから推測し、魔物騎乗も同じだろう、とベルスレイアは考えていた。竜騎士が竜に乗れば、補正がかかるのだ。ならば、竜人族が竜の姿になり、それに騎乗しても魔物騎乗の補正はかかるはず。
――という、前提があるからこそ。ベルスレイアはフランルージュ達に向かって『騎竜となって欲しい』と発言したのであった。
彼女達には、竜の姿になってもらう。そして黒薔薇や白薔薇の、魔物騎乗属性持ちに騎乗してもらう。そうすれば、レベル上げ以外の方面から戦力を強化できる。と、いう考えであった。
だが。そうした前提を知らない以上、フランルージュ達には到底受け入れがたい提案であった。
つい先程まで、皇族として誰もに敬われる生活を送っていた。にも関わらず、突如騎竜になれ等と命じられたのだ。それは畜生の真似事をしろという、嫌がらせ以外の何の意味も無いように感じられた。
当然――反発する。
「ふざけないでッ!! 知能の低い魔物と同じ扱いなど、受け入れられるはずが無いでしょうが!!」
フランルージュは怒声を上げた。他の皇女、皇后達も同様に頷く。
「ふざけているのはそっちよ。私を馬鹿にしているのかしら?」
しかし、ベルスレイアも負けじとばかりにキレ返す。
「この私が、私の所有物を、その辺のしょうもない魔物、羽の生えた蜥蜴と同じ扱いをするとでも?」
「……いや、それはそちらが自分から言ったことでしょう」
「そんなわけ無いでしょう? この私の所有物ですもの、衣食住最高のものを揃えるわ。当然、皇宮に居た頃と遜色ないか、それ以上の生活を約束するわよ!!」
「そ、そう……ならなぜ騎竜に、などと」
なぜかキレ返され、しかも訳の分からない高待遇を約束され。フランルージュは困惑する。
「強くなるために必要なのよ。私ではなく、私の所有する戦力の為にね」
そう言って、ベルスレイアは説明する。職業毎に存在する魔獣騎乗属性のこと。ダメージ計算の補正のこと。そして、竜人族が変身した姿でも補正がかかるはずだということまで。
一通り説明して、ようやくベルスレイアの意図が伝わる。
が、しかし。
「……事情は分かりました。しかし、受け入れるわけにはいきません」
「あら、どうして?」
「騎竜という形が、そもそも侮辱的です。それに、貴女に協力する理由が一切ないですから。私達は、ただ誘拐されただけですもの。いずれアインヘリウス様が助け出してくださるまで、待っていれば良いのです」
至極当然の理由で、断った。
「まだ勘違いをしているようね」
ベルスレイアは、フランルージュの胸元を掴み、ぐいっと自分の方へと引き寄せる。
「お前達に拒否権は無い。私の所有物のことは私が決める。そして、あの王様気取りの蜥蜴がお前達をもう一度手に入れることも無い。既に私のものになったのだから」
「……私は、アインヘリウス様を信じますので」
「そんなこと、許した覚えはないわ」
次の瞬間。ベルスレイアはフランルージュの胸元を掴んだまま持ち上げ、投げる。床に向けて投げ落とした為、フランルージュは衝撃により咽る。
そこへ、ベルスレイアの手が伸びる。
「憶えておきなさい。これが、お前の所有者の味よ」
言って――ベルスレイアは手をフランルージュの額に付け、魔素を流し込む。
「――っ!!」
突如、脳へと流れ込んできた奇妙な感覚に、フランルージュは驚愕する。そして、続いて全身へと走る快楽に目を見開く。身体を震えさせ、どうにか耐えようとする。だが、ベルスレイアの手から流れ込む『何か』には逆らえなかった。
一挙連続投稿五日目です。
宜しければページ下部の方から、他著者の一挙連続投稿作品までお読み頂けると有り難く思います。