禁忌と亡国 03
――何者かが、皇族を狙っている。
そう皇帝が判断したことにより、城や皇后達の住まう皇宮の警備は強化されることとなった。
何者か、とぼかしてはいるものの。実際のところ、敵の正体は明らかである。
ベルスレイア。近年頭角を現した、Sランク冒険者。犯罪者ギルドを解体し『銀華苑』と呼ばれる比較的健全な運営の成されるギルドを設立したことでも有名である。
その存在の台頭を、皇帝ライゼンタールは危険視していた。絶対的な権力者であるはずの、帝国皇帝という立場。それを以てしても抑えきれないベルスレイアの勢力拡大。そして反抗。
かつて妻になれと迫った日のことを、ライゼンタールは思い返した。あの時の選択を、もう少し慎重にしていれば、という後悔もあった。が、最終的には間違いではなかったとも思っている。
結局のところ――力が全てなのだ。ライゼンタールは、自分の力を信じていた。絶対無敵、竜人族最強という自負。皇帝の座に数百年座り続けたことで証明もしてきたと思っている。
故に――強硬手段に出れば屈するものと思っていた。
その結果、差し向けた者は殺され、宣戦布告と共に送り返されることとなった。
だがこの期に及んでまだ、ライゼンタールは考えを変えない。正面から戦えば、自分が勝つ。最終的な勝利を確信しているからこそ、傲慢でいられる。
ある種、ベルスレイアに似てもいる。だが、決定的に違う一点があった。
ベルスレイアは、配下を駒などとは思わない。手に入れた者達は、全て自分の手足と同等だと思っている。
ライゼンタールにとって、妻も、娘や息子も。全てが自分の絶対的な地位を補強する為の駒に過ぎない。
その点で思想が違った為――実際、結果にも影響することとなった。
ライゼンタールは、ここまでベルスレイアに好き放題されておきながら。自分自身が敗北することは無いと安心しきっていた。だからこそ、駒である皇后、皇女達の住まう皇宮の守備を固めた。万全の守備であれば、護りきれると慢心していた。
これまでの結果を踏まえれば――そうでない可能性も十分に考えられたというのに。
手元に置いておけば良かったのに。自ら護りに出向いていれば良かったのに。
あくまでも、駒は駒でしかなかったから。駒を護るのもまた駒に過ぎなかったから。
翌日――皇宮から、全ての皇族女性が姿を消した。
万全の警備を敷いていたにも関わらず。侵入者の気配すら無く。音も、悲鳴も、何一つ無いまま。皇后や皇女達が姿を消したのだ。
まるで女性だけを狙い澄ましたかのように。――というより、間違いなく狙い澄ましていたのだろう。皇子達は、誰一人として攫われてはいなかった。傷一つ付けられるようなこともなかった。
しかし――女性は一人残らず消えていた。争ったような形跡も無く。忽然と、本当に突如消失でもしてしまったかのように。
ただ……第一皇后が攫われる瞬間だけは、目撃者が居た。
第一皇后を守っていた、女性の近衛騎士。その目の前で、第一皇后は攫われた。
後に、取り調べの中で近衛騎士はこう語った。
「あの時……ふと気がついたんです。黒い影が壁から……真っ直ぐ、第一皇后様に伸びていました。光の加減とかではなく、本当に影が伸びて、動いていたんです。慌てて、第一皇后様をお守りしようと動いたのですが。既に遅くて……影から闇が出てきて。そのまま、第一皇后様を包んで……影の中へと、飲み込んでしまったんです」
その証言から、皇后、及び皇女は失踪ではなく、誘拐されたのだと判断されることになった。
一挙連続投稿三日目です。
宜しければページ下部の方から、他著者の一挙連続投稿作品までお読み頂けると有り難く思います。