禁忌と亡国 02
ベルスレイアは妖しく笑みを浮かべる。そして手を差し出し、男の頭の上に置く。
「さて。――加減をするつもりは無いわ。早めに口を割りなさい」
そう言って――魔素操作にて、大量の魔素を男の頭へと流し込んでいく。
元々、これは反抗的なメイド達に対して行っていた洗脳術である。魔素を流し、脳機能を麻痺させ、感情を錯覚させる。これをさらに強い出力で行うと、シルフィアのように従順にもなる。
そして――更に出力を上げる。人間に流し込む、という常識から外れた量の魔素。常人が一生の内に一度も触れることの無いような濃密な魔素を、脳に浴びせる。
すると、どうなるか。
「――かぁ」
男は白目を向き、口の端から泡を吹く。
「お前の目的を言いなさい」
その状態の男に、ベルスレイアは質問を投げかける。すると、男は辿々しい口調でゆっくり答え始めた。
「あ……標的の、誘拐。と、暗殺」
「っ!? おいッ!」
残るもう一人の襲撃犯が、驚いた様子で同僚を制止しようと声を上げる。
だが、泡を吹きながらも男の言葉は止まらない。
「その標的とは誰?」
「う……シルフィア、ルル、暗殺。……ベルスレイアの、女。誘拐」
「なるほど。で、それをお前にやらせたのは誰?」
「……分からない」
「お前の所属は?」
「皇室付き……特務諜報課」
こうしておおよそ、ベルスレイアの聞きたい情報は得られた。
「情報提供ありがとう。最期は、せめて苦しまないようにやってあげる」
言うと、ベルスレイアは『破壊』スキルの発動にて男の脳を消滅させる。即死した男は、うめき声すら上げること無く、人形のように倒れた。
「き、貴様……なにをやったんだッ!!」
もう一人の、残る襲撃犯の男が声を荒げる。怒り半分、恐怖半分といった様子。
「魔素中毒状態って言うのよ。濃密すぎる魔素を浴びると、人は意識が朦朧とする。これを利用して、彼にはほぼ無意識の状態に入ってもらったわ。後は外部からの刺激に、そのまま反応してくれるから、質問をしただけ」
そこまで言うと、ベルスレイアは収納魔法から常闇の剣を取り出し、構える。すると、ゆらゆらと炎が剣に纏わりつく。
「そしてあの状態になったら、もう助からない。だから殺してあげただけよ」
そして――一閃。男の首を一瞬にして刎ねる。炎の魔法を纏った刃は、傷口を焼き焦がした。結果、血の一滴も流さずに男は即死。
「――一つ、作戦を変更するわ」
ベルスレイアは、その場で告げる。
「思っていたよりも、向こうは無謀だったようだもの。……その思い上がりを、正してあげましょう」
言って、常闇の剣をベルスレイアは収納魔法に片付ける。
「少し、予定よりは早いけれど。――大切なものに手を出されたんですもの。反撃開始と行きましょう」
――その日の夜。
皇帝の私室に、ある『贈り物』が届いた。
それはいつ、どうやって届けられたかも分からない。悪趣味かつ不気味な贈り物であった。
私室に入った皇帝が目にしたのは――二人の男の死体。
一人は首を刎ねられており、傷口が焦げて炭化していた。そしてもう一人は、目立った外傷は無かったのだが。死因を調べた結果、何故か脳だけがごっそりと、くり抜かれたように消滅していた。
不気味な死因の死体二つに添えられて、一通の手紙。
『目には目を、という言葉があるように。お前も同じ物を失う覚悟をしておきなさい』
短く、それだけが書き記されていたのであった。
一挙連続投稿二日目です。
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