犯罪者ギルド 03
「予め、言っておくわ。そこに転がっている男がやっていたようなことを、私はしない。不愉快な餌を垂らして、股間に脳が付いたような男共を釣り上げ飼い慣らしていたようだけれど。私はそんな報酬など一切払わないし、個人的に得ようとすることも認めないわ」
ベルスレイアは、ギルド長のやり方をはっきりと否定。さらには、個人的な奴隷の所有も認めない。
「そんな、横暴な……」
一人の幹部の男が声を漏らす。すると、ベルスレイアの足元から影が伸びていく。影は男の足元で留まる。そして――男の身体が、影の中へと沈んでいく。
「ヒッ――!? うぎゃああああぁぁッ!!」
怯えるような声の直後。男は絶叫を上げた。また、同時に影の内側から、肉と骨をすり潰すような音が響いて来る。
「があぁあっ!! だのむッ! だすげでぇッ!!」
男は必死に命乞いをする。だが、ベルスレイアは聞く耳も持たない。やがて男は声を上げることすらなくなる。さらにもう少しすると、男の肉体が完全に影の中へと消えた。
「――どうした。反論があるなら自由に言いなさい。私は優しいから、『少し』苦しめて殺すだけで許してあげるから」
仮面の下で笑みを浮かべるベルスレイア。その口元だけが覗く構造から、幹部達からは余計に不気味な笑みに見えてしまう。誰も、これ以上反論を漏らすようなことは無かった。
「よろしい。では、これからギルドの再編について、話をしていきましょう」
言って、ベルスレイアは本題に入る。
「このギルドを、私好みに変えてもらうから。協力的じゃない者は……そうね。早めに『還して』あげましょう」
こうして、幹部達の積極的な協力でもって、犯罪者ギルドの解体と再編成が開始された。
――その後、一週間ほどの時間をかけて、ベルスレイアは組織の改編、そして人員の選定を進めていった。
まず、幹部の選定。比較的真っ当な思考を持つ、有能かつ顔立ちの整った女性を中心に揃える。足りない分は、黒薔薇と白薔薇から出向させる。
主な業務内容も変更した。殺人や誘拐等の依頼は全て破棄。諜報や密偵の業務までは受けるが、それ以上は一切しない。密猟の類も完全に廃止。
代わりに、かつて『竜の牙』がやっていたような大型魔物の組織的な狩猟を行うようになる。当然、捨て駒戦略等は不使用。ギルド所属のメンバーには、定期的なギルド内での訓練を業務として課し、これにも給与を払う。
そうした改編に伴い、初期は多大な金額の費用が必要となった。これを、ベルスレイアはギルドの資産から捻出。
宝石や土地、魔道具等。非常時の資金源という名目で買い集められる一方だったこれらを、一挙に処分。その資金を初期投資に使った。
その後は大型魔物の素材や討伐報酬、貴族からの調査依頼を資金源として、半年程経過したころには安定した。
また――改編に伴って、様々な貴族とも接触することになった。中にはかつてのギルド長同様、違法な奴隷に非人道的な扱いを強いている者もいた。
そうした貴族を粛清する意味でも、犯罪者ギルドを手に入れたのは都合が良かった。まるで誘蛾灯に集まる害虫のように。悪徳貴族は犯罪者ギルドに、かつてと同じ内容の依頼を持ち込む。拒否されても、何度でも。
そうした貴族を狙い、ベルスレイアは粛清を進めていく。帝都だけでなく、リンドバーグの国内全土に渡り、粛清の手を広げていった。
重要な作業であったため、これらはベルスレイア自身が出向いて行った。血の翼と魔法を使った高速飛行もあり、長くても二日帝都から離れる程度で済んだ。
あれこれ進めて――およそ一年後。
犯罪者ギルドは完全に姿を変えた。元犯罪者ギルドの構成員は、黒薔薇や白薔薇の教育により戦闘能力を高めた。また、礼節や教養も身に付けた。
その過程でクラン『野薔薇』の面々が接触してきたため、ついでとばかりにベルスレイアは全員纏めて面倒を見た。
結果的に冒険者ギルドとの連携も良好なものとなり、業務は効率よく回るようにもなった。ベルスレイアの手駒になりうる人員も増えた。野薔薇、そして元犯罪者ギルドの構成人数は増加する一方だった。
そうして生まれ変わった元犯罪者ギルド。現在は名前を『銀華苑』へと変え、帝都でも好意的に受け入れられることが多くなってゆく。
そうして順調に、銀華苑と野薔薇、二つの組織による帝都の掌握は進んでいく。また、銀華苑の集めた情報により、貴族の粛清も進んでいく。
やがて、この状況に耐えきれなくなったのか。
――帝国側からの、反撃が起こった。