犯罪者ギルド 02
犯罪者ギルドの中枢。帝都に存在する、裏路地から入らなければ辿り着けない場所にある建物。
この日――ギルドに新たな依頼が舞い込んだ。帝都に誕生した新たなSランク冒険者、ベルスレイアについての調査依頼。
対象の情報であれば、どんな些細な情報でも構わない。徹底的に調べ上げろ。
調査依頼にしては具体性に欠ける指示であった。だが、ギルドとして無視するわけにはいかない。依頼を持ってきた人物は、数多くの貴族と繋がりのある人物であった。これまでも幾度となく、貴族繋がりの依頼を持ってきている。
今回も同様なのだろう、と犯罪ギルドのギルド長は考えた。どこかしらの貴族と、恐らくはそのSランク冒険者本人が揉めた。あるいは、何らかの確執がある。
そうした依頼は往々にして、調査依頼だけで終わらない。
標的の捕縛。殺害。あるいは奴隷に落とし、調教して売り払う。様々な形で次の依頼が舞い込む。
そして犯罪者ギルド側も、お零れを頂戴する。標的が女だというなら。殺す前に犯すことも可能だった。実際、これまでに幾度となく、同様の手口で標的の女を辱めた後、殺してきた。ギルド長にとって、珍しくも無いことである。
きっと今回もいい思いが出来るに違いない。ギルド長は舌舐めずりをする。そして、調査依頼を誰に割り振るか、と考えを巡らせる。
だが――不幸にも、彼がその先を考えることは、永遠に来なくなった。
そして幸運にも。彼の命は、痛みを感じる暇すら無く、一瞬にして散った。
ギルド長が気づかぬ間に、背後に黒い人影。――スキル『破壊』の発動。ギルド長の脳を、触れることもなく一瞬にして消滅させる。
出血すら無いまま。ギルド長は躯となり、己の執務室の床に倒れ込む。
これを……『銀薔薇』の仮面を身に付け、身体を影で覆ったベルスレイアが冷たく見下ろしていた。
「下らない男ね」
ベルスレイアは真っ先に、犯罪者ギルドのトップであるギルド長を狙って襲撃した。暗殺、という形で始末に来たのであった。
死体を蹴って、執務室の入り口の方へと寄せる。その横に、銀の薔薇の造花を投げ、茎の部分を突き刺す。
この男がどのような男なのか。既にベルスレイアは知っていた。かつて『竜の牙』を壊滅させるために暗躍した時。犯罪者ギルドについての情報も集まった。
そしてギルド長であるこの男が、どのような卑劣なやり方でギルドを運営していたのかも。
汚いものを触ってしまった。と、でも言うかのように。ベルスレイアは嫌そうな顔をして、ギルド長の死体から離れる。
そして執務室の机に座り、呼び鈴を鳴らした。
――程なくして、執務室に数名のギルド幹部が集まる。そして入り口に横たわるギルド長の死体をみて驚く。続いて『銀薔薇』の姿を見て、さらに驚く。
「ぎ、銀薔薇――」
当然、犯罪者ギルドでもその名は恐れられている。集まったギルド幹部達の間に、緊張が走る。
「……見ての通り。もうギルド長だった男は死んだ。今日からこの組織は、私が貰い受けるわ」
理不尽な、一方的な要求。しかし、反論をする気には、誰もならなかった。S級の指名手配犯に暴力で抵抗できる者など、この場には存在しなかった。
「ギルド長を、その、殺害なさったのは、何故でしょうか」
幹部の一人――二人だけいる女の内一方がベルスレイアに訊く。ギルドを奪うにしても、ギルド長を殺す必要性は無いだろうと思った為であった。
「単純よ。その男のやり方は気に入らない。認めない。だから消えてもらったの」
僅かに怒りを滲ませる、ベルスレイアの言葉。それに、幹部達は緊張する。