女神フォルトゥナ 02
清美はしかし、フォルトゥナを疑いながらも、一部分では信じていた。
転生、とは比喩表現かもしれない。死んだというのは一度瀕死になったという意味。そして社会的に居場所を失ったという意味。
そう考えれば辻褄は合う。理由は知らないが、この女は私を死んだということにして、新しい環境で何かをやらせようとしている。
つまり転生とは、新天地で私に何かをやらせることの暗喩なのだろう。と、清美は推察した。
「で、その転生とやらはどういうものなわけ?」
清美は自分の推察を前提に、フォルトゥナへ問いかける。
「まずは、安心してください。ちゃんと記憶は持ったまま転生していただきます」
ところが、フォルトゥナは本当に転生をするかのような言い回しで話を続ける。
「赤ちゃんの時点で記憶があると色々大変かとは思いますが……その方が人生を選ぶ自由がより大きくなります。清美さんの願望を考えれば、それは好都合なのではありませんか?」
これはどういう意味か。また何らかの比喩か。だとしたらその意味するところは?
清美は考えるが、答えは出ない。故に流れに任せて返答する。
「確かに、自由に生きる為であれば好都合と言えるね」
気のない返事に、フォルトゥナは微笑みを返す。
「でしたら良かったです。もう転生の準備は済ませていますから……これから記憶を一時的に封印したり、あるいは転生じゃなくて転移や憑依という形に変更するのは大変でしたから」
勝手に話を進めていたのか。屑め。私のことは私に伺いを立ててから決めろ。死ね。
胸中で罵倒しながら、清美は眉を顰める。
「……そういう話はもういい。早く本題にはいってくれない?」
清美の言葉に頷き、フォルトゥナは話を続ける。
「では、転生する先――どんな異世界が貴女を待っているのかについてお話しましょう」
いよいよ、この女の魂胆が分かるか。と、清美は集中力を増して耳を傾ける。
「実は清美さんが転生する世界は……清美さんもよく知る世界なのです」
「私が、ねえ? どんな場所?」
日本の有名な土地のどこかに連れて行かれるのだろう、と想像しながら問う清美。
「はい。実は――ラブ・トゥルーシア・オンラインというものをご存知ですか?」
「……知ってるけど。それが何か?」
「転生先は、そこなんです」
――清美は、フォルトゥナの発言の意図を掴みきれず、呆然とした。
「は?」
なんとか絞り出した言葉は、それだけだった。
「すみません。正確に言えばラブ・トゥルーシア・オンラインそのものではないんです。そのオンラインゲームの世界そっくりな異世界に転生してもらう、という形になります。……清美さんが大層気に入っていた世界だと思ったので、こういうチョイスになったのですが、何か問題がありましたか?」
ある。即答したかったが、清美は言葉を飲み込む。なぜなら問題はLTOに転生するという話が意味不明であるということだけであり、LTOそっくりの世界に転生することについては異存が無いからだ。
「……一つ、訊かせてもらっても?」
「ええ、どうぞ」
「本当に、私は転生するわけ?」
「ええ。最初から、そう申し上げています」
にっこり笑う女神フォルトゥナ。しかしその表情を清美は苦々しく見返す。




