犯罪者ギルド 01
「――私のベルを奪おうとするなんて、本当、なんだか、むかむかしますっ!」
屋敷へと帰り着いたベルスレイア一行。リーゼロッテはご機嫌斜め。自室のベッドで、枕をぼかすかと殴っていた。
「落ち着きなさい、リズ。私があんな雑魚に奪われるわけないでしょう?」
そして、不機嫌なリーゼロッテを慰めるベルスレイア。頭を撫で、髪を梳く。そして親愛を示すように、首筋へと吸血鬼の牙を立て、甘噛みする。
「ん……それもそうですね」
歯切れ悪く、しかしリーゼロッテは納得する。枕を殴る手を止めて、ベルスレイアに触られる感覚を楽しむ。
「それで、結局どうやってやり返すのさ?
そんな二人の様子を、後ろに控えて眺めていたルルが口を挟む。
「決まっています。今すぐ全軍で制圧しましょう。皇帝であの程度なら、私達と黒薔薇、白薔薇であれば敵にもなりません!」
同様に、後方に控えているシルフィアも怒りを顕にして語る。
「駄目よ、シルフィ」
だが、ベルスレイアが否定した。シルフィアがしょんぼりとするのに合わせ、耳が下がる。
「聖王国でも、予想外の敵が現れたわ。負けることは無いにせよ、貴方達が傷つく可能性も考慮しなくてはいけないわ」
ベルスレイアが言ったのは、聖王国の王城が変化したゴーレム。巨大な、防御力と抵抗力が二百にも達する化け物のことであった。
「この私が、あの程度の雑魚に大切な所有物を傷つけられるなんて、不愉快が過ぎるもの。絶対にあってはならない。可能な限り、最大限の安全策でいくわ」
結果的に、配下に優しい。いつもどおりのベルスレイアであった。
「でも、具体的には何をするわけ? 安全策って言ったって、結局はどこかで戦うんでしょ?」
ルルが指摘する。これも尤もな話で、敵対者相手に戦闘行為を避けるというのは現実的に言って不可能である。
ならば、どうするか。これに、ベルスレイアは解答を持っていた。
「単純な話よ。少しずつ、周りから削り取っていくの。そうとも気づかないように。あるいは、気付いても手出しできないぐらい遠回りに。見えもしない敵と争うことは不可能だもの」
「で、その具体案は?」
「一つ、欲しい物があるのよ」
ベルスレイアは言うと、リーゼロッテから離れ、立ち上がる。そして操影を発動し、影への入り口を生み出す。
「付いて来なさい。――収穫に向かうわよ」
結局何も説明しないまま、ベルスレイアの作戦は開始された。
――犯罪者ギルド。それは、機械帝国リンドバーグにおいて、冒険者ギルドと双璧を成す組織である。
実力主義の帝国では、当然実力のある犯罪者もまた優遇される。とは言え、表立って法律で無罪放免とするわけにはいかない。
そこで、犯罪者ギルドというものが必要となる。犯罪者同士の互助組織。犯罪者だからこそ可能な仕事の斡旋。要するに――裏で冒険者ギルドと同様の仕事を、犯罪者同士で行っているのが犯罪者ギルドであった。
本来、犯罪者であれば法的に裁く必要がある。だが、犯罪者ギルドに所属し、仕事をする犯罪者は社会に必要な存在でもある。そうした理由から、彼らは簡単には捕まらない。能力が高い者ほど、重要な仕事を任される。
かと言って、無法地帯というわけでもない。犯罪者ギルドにも、不文律という形でルールが存在する。それを破ったものは、表で言う法律違反と同様の扱いを受ける。ギルドでは仕事が出来ない。身柄を拘束され、犯罪者として国に突き出される。
社会を構成する組織の一環として、犯罪者ギルドは成立していた。
そして――ベルスレイアが欲したのが、正にその犯罪者ギルドであった。