魔物の暴走と防衛戦 05
ベルスレイアは、常闇の剣を構え、駆けてゆく。
魔物の集団に近づくと同時に、魔法を使う。炎の魔法を、血の魔眼を使って効果範囲を最大限まで拡大した上で発動。
次の瞬間には、嵐のように荒れ狂う炎の渦が発生していた。無数の魔物がこれに巻き込まれ、焼殺される。
「……この程度じゃもう、レベルも上がらないのね」
ベルスレイアは残念そうに呟く。実際、倒した魔物は最前線に居た雑魚ばかり。レベルに関しては一つも上がることが無かった。
だが――ベルスレイア以外に関しては話が変わる。
「でもまあ――これも必要なことよね」
一人で呟き、ベルスレイアは魔物を殲滅していく。
その様子を――ベルスレイアの影の中から眺める者達が居た。
「わあっ! ベル、かっこいいです!」
まず、外が見える場所に最も近寄っているのがリーゼロッテ。
「ええ、さすがベル様ですね。ここまでの数の魔物を相手にして、討ち漏らしも無く殲滅するとは。ただ強いだけではなく、戦場全体を把握する能力も素晴らしいです」
その横で、状況を説明しながらベルスレイアを見つめるのはシルフィア。
「――はい、次の人! 転職プランはとっくに渡した資料通りに決まってるんだから、時間かけずにちゃっちゃと済ましちゃって!」
そして後方で、大勢の黒薔薇、白薔薇を誘導しているのはルル。
黒薔薇、白薔薇達が並ぶ先には、神託の水晶。そして並ぶ彼女達は、次々と転職を済ませていく。
転職が終われば、また少し待ったかと思うと、再び列に並ぶ。列が途切れることもなく、転職がひたすらに続いていく。
――最初にこの現象が判明したのは『竜の牙』を殺して回った時であった。
当時、リーゼロッテは聖女から転職して密偵になったばかりだった。何かの機会にレベル上げをするかもしれない、という考えだった。『竜の牙』殺しに参加させるつもりは、ベルスレイアには無かった。
だが、蓋を開けてみれば。リーゼロッテのレベルは一日にして20まで上がった。
戦闘などしていないにも関わらず、である。
その後、色々とベルスレイアは検証した。結果、ベルスレイア自身の影の中に居る者は、ベルスレイアの取得する経験値の一部を貰うことが出来ると分かった。
割合として、一割がベルスレイアの影の中に。その一割を影の中の人物で等分する、というものだった。
そこで今回。せっかく無数の魔物を倒すのだから、とベルスレイアは白薔薇、黒薔薇も連れてきた。彼女達を戦わせずにレベルアップさせる為である。
「――本当に、ベルはすごいです。私も、ベルと一緒に闘いたい」
リーゼロッテが、ベルの戦う様を見ながら呟く。その声色は、どこか焦るようでもあった。
「それならリーゼロッテ様。修練あるのみですよ」
「はい、分かっています」
シルフィアの忠告のような言葉に、リーゼロッテは頷く。
リーゼロッテは、ベルスレイアの実力を目の当たりにして、ある考えが過ぎってしまった。
私、ベルにとって何の役にも立たないんじゃないかな――と。
ベルスレイアが自分を求めてくれることは分かっている。しかし、自分に様々なものを与えてくれるベルスレイアに、自分は何も返せない。愛しているけれど、それ以外に何もない。
気付いてしまったリーゼロッテ。以来、リーゼロッテはシルフィアを相手に剣術指南、ルルを相手に魔法指南を受けていた。
そうした甲斐もあり、リーゼロッテは急成長を遂げていた。