魔物の暴走と防衛戦 03
そうして訓練が続き、昼が近づいてきたところで終了。一度昼食の為に解散の流れだろう、と少女は考えた。
だが、ベルスレイアは思わぬことを言った。
「それでは、昼食の時間にしましょうか」
それはまるで、この場で全員が食事を取れるかのような言い草だった。
ベルスレイアがポンと手を叩く。すると、メイド達が一斉に姿を現し、その場にテーブルや無数の料理を準備していく。
「さあ、自由にお食べなさい」
ベルスレイアの言葉に、誰もが耳を疑った。
明らかに、並ぶ料理は豪華なものばかり。庶民の作るような料理も混じっているが、品質や飾りの豪勢さも見て分かるほどの違いがある。
「どうしたの、食べていいわよ。遠慮する必要は無いわ」
ベルスレイアの言葉に、少女は唾を飲む。ごくり、と。この料理を、夢にも見たことのないような食事を楽しむことが出来るのだ。
我慢は限界であった。少女は、目の前の料理に手を伸ばし、用意されてある小皿に盛り付ける。
そうして、一口目を口に運ぶ。
「お、おいしいっ!」
思わず声を上げた。それほどに美味しかったのだ。
少女の反応を見て、ついに他の冒険者達も覚悟が決まる。それぞれ思い思いに料理を小皿に盛り付け、口にしていく。誰もが舌鼓を打つ。
そんな状況で、少女は周囲を気にする余裕など無かった。
日頃から生活が苦しく、食い詰めているのもあった。無意識のうちに、誰よりも山盛りに料理を盛り付け、どんどん平らげていく。
そんな少女に、ベルスレイアが近づいていく。
「――貴方、よく食べるのね」
「へ? ひゃ、ひゃいっ!」
後ろから呼びかけられ、少女は驚く。口に含んだままのため、舌っ足らずな言葉になってしまう。
失礼だと咎められるかと思った。が、ベルスレイアは何も言わなかった。
「慌てず、ゆっくり食べなさい。消化に悪いわ。料理はいくらでもあるのだから」
そして、気遣うようなことを言う。噂とも、訓練の始まる時の印象とも違うベルスレイアの様子に、少女は困惑する。
「は、はい。ありがとうございます」
今度は口の中のものをよく噛んで飲み込んでから、お礼を言った。
「……あの、質問をしてもいいですか?」
「ええ。何かしら?」
「どうして、ここまでしてくれるんですか? こんな豪勢な料理を、下っ端の冒険者にまで振る舞うなんて普通じゃないです」
少女の疑問に、ベルスレイアは気分を悪くすることも無く答える。
「貴方達は私の所有物なのよ? 最初にも言ったけれど、強くなってもらわないと嫌なの。そして食事は身体を作る資本。わざわざ質の低いものを食べさせて、弱く育てる意味が分からないわ」
説明を受け、少女は結局理解は出来なかった。理屈そのものは分かるが、その理屈を立てた気持ちの部分は結局分からない。
だが、ベルスレイアが自分達の為に食事を用意してくれたのは分かった。
「ありがとうございます、ベルスレイア様」
だから、正直にお礼を言う。
「当然よ。これからも感謝なさい」
そう告げて、ベルスレイアは少女から離れていく。
その背中を見ながら、少女は思う。もしかしてこの人、そんなに悪い人じゃないのかも、と。