魔物の暴走と防衛戦 01
「――しっかし、派手にやったよなぁ、嬢ちゃん」
ギルドマスター、ギルバートの執務室にて。また呼び出しを受けたベルスレイアに向け、呼び出した本人が言った。
「何のことかしら?」
恍けるように、ベルスレイアは言う。
「そりゃあもちろん、最近噂のS級指名手配犯。『銀薔薇』のことだよ」
「あら、そんな人が居るのね」
「ああ。ところで嬢ちゃん。お屋敷に銀色の薔薇の家紋を掲げてるそうじゃねえか」
「まあ。そんな偶然もあるのね」
「はぁ……そうかい。まあ、そういうことにしとく」
ギルバートは頭を抱えながら、諦めたように言う。
「……実際のところ、冒険者クラン同士の抗争なんざ少なくねぇ。死人が出るのも珍しくはねぇし、現行犯でもなけりゃあギルドが対応するなんてことはまずねぇからな。その『銀薔薇』とやらがギルドに所属していようが、俺から何かするなんてつもりはさらさら無いぜ」
「そう。賢明な判断ね」
言って、ベルスレイアは紅茶を飲む。付き従うルルが、この場で用意したものである。
「とまあ、世間話はこんぐらいでいいだろう。本題は全く別だ。嬢ちゃん、緑竜を殺したよな? その影響が出てる。森の魔物が活発化して、周囲が騒がしくなってんだ。そう遠くないうちに、魔物の集団暴走が起こる可能性がある」
魔物の集団暴走。それは様々な理由により発生する、無数の魔物による大規模な生息地の移動のことを指す。
多くの場合、魔物達は冷静さを失っている。その為、凶暴化し、普段よりも危険度は跳ね上がる。その上、いくら倒してもきりが無いほど、魔物が押し寄せてくる。
非常に危険、かつ厄介な現象である。
それが起こると、ギルバートはベルスレイアに告げた。その意味を、ベルスレイアは即座に察する。
「そこで功績を上げれば、Sランクになれるのね?」
「ああ。嬢ちゃんほど力があれば、集団暴走ででかい功績を上げるのは容易いだろ。その上、他の冒険者の目もある場所でのことだ。上も知らんぷりは出来ねぇ。まず間違いなく、Sランクに上がれるはずだ」
ギルバートは頷き、根拠を告げる。その上で、さらに話を続ける。
「そして俺たちギルド側は、嬢ちゃんが頑張ってくれたらその分楽が出来る。犠牲者も減る。だからお互い得をするってわけだ」
「そう。で、今その話を私にしたのには、当然意味があるんでしょう?」
「ああ。出来れば嬢ちゃんに、防衛戦の最前線で戦ってもらいたい。可能なら指揮も任せたいんだ」
率直に魂胆を告げるギルバート。
「理由は?」
ベルスレイアも、率直に尋ねる。
「まず、本来なら俺が出向くところだ。けどまあ、さすがの俺でも集団暴走の最前線はきつい。出来るなら他のやつにまかせて楽をしてぇんだ」
怠惰な理由を真っ先に挙げられ、ベルスレイアの視線が鋭くなる。
「が――まあ、それ以上にアンタの能力に期待してるってのがある。今回の集団暴走で、嬢ちゃんがどこまで出来るか。それを見極めたい」
「なるほど。それならまあ、乗ってあげなくもないわ」
私が最強だと示すにも都合がいいもの。と、ベルスレイアは考えつつ応える。
「但し、条件を一つ付けさせてもらうわよ」
「ああ、出来る範囲ならなんでもいいぞ」
「私が指揮する最前線の部隊。これに所属する冒険者は、女の子だけにしてちょうだい。それも、できるだけ可愛い子だけよ」
「……マジで言ってるのか?」
さすがのギルバートも、この提案には困惑する。
「本気よ。私が指揮するんだもの。私の所有物も同然。そして私は美しいもの以外はいらないの。男とブスは論外。可愛い女の子だけで部隊を編成しなさい。そうでなければやるつもりは無いわ」
「しかしだなぁ……さすがにそうなると、戦力に不安が」
「何を馬鹿なことを言っているの?」
ベルスレイアは、呆れたように言う。
「私がいるんだもの。誰一人、かすり傷一つ負うことなく終わると保証するわ」
あまりにも、自信ありげに言うベルスレイアを見て。ギルバートは、提案を飲むしかないのであった。