女神フォルトゥナ 01
気付くと、森の中にいた。
清美は目を開き、辺りを見回す。緑豊かな森の中。鬱蒼とした木々が、まるで自分を囲むように生えている。ちょうど清美を中心とした広場が出来上がっていた。
清美の身体は、どうやらベッドの上に乗っていた。ベッドと言っても、天然物だ。蔦が無数に絡まりあい、骨組みとなっている。クッションの代わりに敷き詰められた花びらは、どうやら蔦から生えていたものらしい。蔦に、同じ色合い、形状の花が幾つも咲いていた。
「お目覚めですね」
不意に、清美の背後から声がかかった。清美は驚きつつも、慌てず緩慢な動作で振り返る。心を乱した、と相手に思われるのが癪だからだ。
そして清美の目には、現実のものとは思えぬ美女の姿が映った。
陽の光を浴び、淡く七色に煌めく貫頭衣。自己主張の強い巨大な乳房。そして柔和に微笑む整った顔立ち。最後に、若草色の長髪。
現実のものとは、思えない色合いであった。
しかし、清美は動じずに尋ねる。
「あんた、誰?」
清美の問いかけに、美女はくすくすと笑いながら応える。
「私はフォルトゥナ。そうですね……貴女の世界の言葉で言えば、女神ということになります」
「女神?」
「はい」
「証拠は?」
「信じて頂く他ありません」
「不愉快な提案だね。いきなり現れたヘラヘラ笑う頭のおかしい女を、この私に信じろっていうわけ?」
不遜な態度で、清美はフォルトゥナに語る。
清美の態度が意外だったのか。フォルトゥナは、目を見開いて呟く。
「まあ……生前とは、まるで態度が違うんですね」
「生前?」
清美は眉をピクリと動かす。確かに自分は一度死んだ記憶がある。その事実を知っているということは、少なくともこの女は何か事情を知っているはず。と考えて、フォルトゥナの話を続けて聞くことにした。
「言ったとおり、私は女神です。監視していた世界の一つで、善行を積んだ良き少女が悲惨な最後を遂げたことを見ていました。ですから、私は貴女が死んでしまったことを知っています」
「筋は通っている。で、私が死んだことを知っているお前は、何を目的に私をこんなところに連れてきたの?」
強い口調で尋ねる清美。それに動じず、微笑みを浮かべたままのフォルトゥナ。
「理由は簡単です。貴女には、ぜひ転生をしていただきたいと思いまして」
「転生、ね」
そういった小説が世の中に数多くあることを、清美は知識として知っていた。故にフォルトゥナの発言を、女神よりも人間寄りのものとして解釈した。
未だ清美は、フォルトゥナを女神とは認めていない。あくまで自分は死なずに生き残り、この女に誘拐されただけだと解釈していた。
清美に疑われているにもかかわらず、女神フォルトゥナは話を続ける。
「善き行いをした者への、ご褒美のようなものです。特に、清美さんは可哀そうな死に方をしましたから。特別に、貴女にとって良い条件で転生をさせてあげようと思ったわけです。けれど勝手に転生を済ませてしまうと、恐らく最初は混乱してしまうでしょうから。ひとまず、ここで最低限の説明を済ませてから転生して頂こうかと思い、この場所にお呼びしたわけです」
「随分と都合のいい話ね」
フォルトゥナの説明を、清美は鼻で笑う。