手出し無用の女 06
「――なるほど」
ベルスレイアは屋敷の庭で紅茶を嗜みながら、帝都で発行された新聞を読んでいた。
連続殺人事件の収束。それが一面記事であった。竜の牙壊滅。帝都で強い力を持っていた貴族の派閥がまるごと壊滅。奴隷商人の死も取り上げられていた。
その犯行現場の、全てに共通する――死体に咲くように突き刺さった銀製の薔薇の造花。これにちなみ、犯人は通称『銀薔薇』と呼ばれるようになった。
そして銀薔薇が国により、S級犯罪者として国際指名手配犯の扱いとなったことを最後に記し、記事は締められた。
「まあ、当然の結果ね」
ベルスレイアは満足げに頷く。犯罪者のランクは、危険度、影響度を鑑みて付けられる。冒険者ランクと似通ってはいるが、唯一異なるのはSランク以上が存在する点である。
冒険者の場合、Sランク冒険者が最上位であり、最も強い。基本的に、犯罪者もその力によりランク付けされ、E級からS級まで付与される。
そして犯罪者の場合は、犯行の影響度によりランクが上下する。どれだけ凶悪かつ強力な犯罪者であっても、標的が平民であり、死者も出ないような場合はランクが下がる。逆に、国に甚大な被害を与えるような犯罪者は、ランクが最大でSSS級まで上がる。
ベルスレイアの場合は、ランクが上がっているパターンであった。戦闘能力に関しては暫定でA級。――この級という表現は、冒険者に適用されるランクを参考にしている為である。Aランクに匹敵する能力、という意味でA級と呼ぶのだ。つまり、正確に言えばAランク級、となる。
そしてベルスレイア――銀薔薇の場合はS級。つまりSランク冒険者に匹敵する影響度のある犯罪者として認定されたのだ。
ちなみに、ベルスレイア自身も、公爵令嬢としてサンクトブルグからA級の犯罪者として認定されている。本来はS級相当なのだが、元貴族である場合、級数を下げることが多い。ベルスレイアの場合は、実家に今も住まう父、ルーデウスの面子を鑑みてのことである。
「――さて。それじゃあ最後の締めに行きましょうか」
紅茶を飲み干し、ベルスレイアは言う。そして立ち上がると、庭を出る。
「ベル様。今日も森に?」
「ええ。彼で最後よ」
侍女として控えていたルルが問い、ベルスレイアが答える。
彼とは――最初にベルスレイアに喧嘩を売った男。冒険者ギルドにて難癖をつけ『竜の牙』の名を出した冒険者である。
彼と彼のパーティメンバーは、ベルスレイアによって拉致され、帝都から離れた森の奥深くに放置された。
そして一日毎に、一人ずつ殺す。そうやって、愚かな選択をした男の心に恐怖を刻み込んだ。
最後の締めとして本人を殺し、今回の計画は締めである。
「じゃあ、行ってくるわ」
告げて、ベルスレイアは屋敷の正門から外へと向かう。
その正門には、巨大なエンブレム――『薔薇』の家紋が飾られていた。
この露骨に飾られたエンブレムを見て、噂する者は後を絶たない。
やがてベルスレイアと『竜の牙』の確執の話と合流し、より真実味のある話となるであろう。
そこを狙っての、あえての家紋。あえての、銀製のエンブレムであった。