手出し無用の女 03
ギルバートの執務室を出たベルスレイア達。そのままギルドの買取カウンターに戻り、素材の売却金を受け取る。
「こちら……全部で大金貨三十九枚です」
受付嬢が出した大金貨を、ベルスレイアは文句も言わず受け取る。
大物を倒した場合、冒険者はより高額で買い取ってもらえるように交渉をする。だがベルスレイアはそれをしなかった。まるで、大した敵ではなかったとでも言うかのように。
実際、ベルスレイアにとって緑竜など虫けら同然である。また、大金貨程度は小銭に過ぎない。以上二つの理由から、特に口を挟む理由など皆無だった。
だが――そうした態度が、気に入らないという者も居た。
「おいおい。横流し品は価格交渉する必要も無いってか、お嬢様よぉ?」
声を上げて、ベルスレイアに絡んでくる冒険者。
「何者ですか」
ベルスレイアと冒険者の間に割って入るシルフィア。
「護衛が居なきゃあ話も出来ねぇのかよ」
「――いいわ、シルフィア。下がっていなさい」
「はい、ベル様」
ベルスレイアに言われ、しぶしぶ引き下がるシルフィア。そしてベルスレイアが前に出る。冒険者の男と対峙する。
「言っている意味が分からないのだけれど。横流しとはどういう意味かしら?」
「そのまんまだろ。テメェがどこぞで買い漁った竜の素材を、ギルドに持ち込んだ。違うか?」
「そんなことをして意味があるとは思えないのだけれど」
「とぼけんじゃねぇよ。そうやって冒険者ランクを上げようって魂胆だろうが」
要するに、男はベルスレイアが不正をしていると思っているのであった。
「はぁ……そういうこと」
呆れるベルスレイア。対話の価値無しとして、実力行使に出る。
「馬鹿でも分かるように言ってあげる。退きなさい」
言って、収納魔法から常闇の剣を取り出し、男に向ける。
だが、男は一切慌てなかった。
「おいおい、いいのか? 俺たちは『竜の牙』だぜ?」
自信満々に言ってみせた男に、ベルスレイアは眉を顰める。これを怯んだと見てか、さらに調子づいた男がニヤニヤと語る。
「てめぇがウチのメンバー誰か一人にでも手を出せば、その時点でクラン全体が敵に回るんだ。どんだけ強かろうが、ウチを相手にして生き残る手段なんかねぇよ」
言い草から、ベルスレイアは察する。男の言う『竜の牙』とは冒険者同士の大規模なグループ。つまりクランであると。
そしてクランという大人数を敵に回したくなければ、頭を垂れろ。下につけ。そう言っているのだ。
ベルスレイアは――鼻で笑う。
「ふん。蛙の子は蛙といったところかしら」
言って、ベルスレイアは男を突き飛ばす。勢い良く男は吹き飛び、ギルドの壁に背を打ち付け、倒れる。
「――カハッ!?」
「群れなければ勝てない雑魚。群れて強い気になる雑魚。どちらも無力であることは同じよ。――シルフィ、ルル。帰るわよ」
ベルスレイアは、倒れたまま睨んでくる男を無視して帰り始める。同様に、シルフィアとルルも続く。
ギルドに残された男は、クランのメンバーらしき冒険者に抱え起こされていた。その様を、ベルスレイアは見ようともしない。
しかし――決してこれだけで許したわけではない。
いい機会だわ。私に楯突くことの意味。私を侮ることの代償。それをしっかり、教えてあげる。
そう考えながら――屋敷へと戻るのであった。