手出し無用の女 02
ギルドマスター、ギルバートの執務室にて。ベルスレイアは不機嫌な顔をしてふんぞり返っていた。
「……で、申し開きは?」
「だからすまんかったって」
ギルバートが平謝りし、それを冷たい目で睨むベルスレイア。後ろに控えるシルフィアとルルも同様である。
「前人未到のダンジョンを踏破して、無力化して。それでCランク? バカにしてるのかしら? というか馬鹿でしょう。殺すわよ」
「勘弁してくれ、俺の権限じゃあこれ以上どうにもならん」
そう。ベルスレイアが不機嫌な理由は、冒険者ランクにあった。
帝都北部遺跡を踏破したベルスレイア達。しかし、三人の冒険者ランクはSではなくCまで上がっただけとなった。
「……上は偶然だの、俺が手助けしてやっただの。勝手なことを言って認めねぇんだよ」
「じゃあそいつらは殺してもいいということね?」
「勘弁してくれ……もう一つ、なんかでかいことでもしてくれたらそれでSランクに上げる。内定だけは貰えたんだから、それでどうにか!」
ゴツン、と机に頭をぶつけるほど、深く謝罪するギルバート。それを見て、ベルスレイアもため息を吐く。
「はぁ。まあ、私も別にランクをどうしても上げたいわけじゃないもの。構わないわ」
「本当か!?」
「ただし、一つお願いを聞いてもらうわ」
「……俺に可能な範囲で頼むぜ」
引きつった笑みで、手加減を求めるギルバート。
「別に、難しい話ではないわ。貴方が試験の時に使っていた蒸魔素機関付きの装備。あれを作った人のことを教えて欲しいだけよ」
それを聞いて、眉を顰めるギルバート。
「そんなことでいいのか? いや、俺の生命線でもあるから、本当ならわりと厳しいっちゃ厳しいんだが」
「駄目なの? なら殺してでも聞き出すだけよ」
「ほらな! アンタがそういう奴だから結局言ったほうがマシなんだよ!」
そうこうして、最終的にベルスレイアはギルバートから情報を手に入れた。また、製作者の所在地のメモまで受け取る。
「訊いていいのか知らんが、そんなもん知ってどうするつもりだ?」
「趣味よ」
ベルスレイアの目的は、魔導器、そして蒸魔素機関にある。パンクトネイルをさらに強化する為だ。
素人の聞きかじり程度の技術しか無いと、ベルスレイアも自覚している。そこで、本格的に技術を学ぶ相手を求めていた。
ギルバートの装備を作った技術者であれば、目的に最も適しているだろう。と、ベルスレイアは考えていた。故に、この機会に対価として情報を受け取ったのであった。
「ところで嬢ちゃんらに聞かせたい話があるんだが」
「何よ。下らない話なら殺すわよ」
そうは言いつつなんだかんだ殺さない奴だと、ギルバートも段々と理解してくる。殺害予告を軽く流しながら、話を続ける。
「実はな、サンクトブルグの方のギルドから手配書が回ってきたんだが。国家転覆罪に問われるA級国際指名手配犯。元公爵令嬢のベルスレイア・フラウローゼスっていう女の話なんだが」
ド直球に、ベルスレイアのことである。ギルバートも察していながら、知らないふりをしつつ話す。
「長い黒い髪が特徴で、年齢もちょうど嬢ちゃんと同じぐらいだとよ」
「そんな怖い人がいるかしら?」
「だな、俺も一切全くこれっぽっちも心あたりがねぇや」
とぼけるベルスレイア。それに便乗するギルバート。
「で、もしこっちにそんな感じの冒険者がいれば、捕まえてくれと通達が来てるんだが」
「やめといたほうが良いわよ。返り討ちに遭うだけだもの」
「そんな気がするぜ……はぁ、なんでこんな厄介事ばっかり俺のとこに来るんだよ」
ため息を吐き、ギルバートはさらに話を続ける。
「まあ、一応伝えはしたぜ。手配書は、少なくとも帝国のギルドでは出回らねぇはずだけどな。どこで嗅ぎつけた奴が来るかも分かんねぇ。気をつけてくれ」
「何を言っているか分からないけれど、心配は無用よ」
平常通り、自信を顕にするベルスレイア。
「――そんじゃあ、今日はこんぐらいで話は終わりだ。拘束して悪かったな」
「全くよ。心の底から悔いなさい」
こうして、ギルバートの胃が痛くなるばかりの呼び出しは終了した。