手出し無用の女 01
冒険者ギルドへと立ち寄るベルスレイア。緑竜の素材の買取を依頼する為である。
「……? 何かしら」
妙に周囲から視線を集め、首を傾げるベルスレイア。
「色々だけど、一番多いのは恐怖。……っていうより畏怖、かな」
ベルスレイアに続き、ギルドに入ってきたルルが予測を述べる。
「何かあれば、私が対応します」
そしてさらに続き入ってきたシルフィアが言う。と同時に、周囲に目を光らせ、警戒する。
尤も、この心配はほぼ杞憂であった。視線の多くは、ベルスレイアという存在から距離を置きたいが為のものである。
理由としては、まず冒険者登録をした初日の活動。新人を威圧した先輩冒険者への反撃の件が尾を引いていた。
次に、帝都北部遺跡を攻略した件が知れ渡ったことも理由に挙がる。普通なら近寄りたいと思うところだが、ベルスレイアに限っては初日の件もあり逆に恐れられている。その為、距離を置きたがる者が増えた。
そして最後に、スイングベル商会を護衛していた冒険者からの情報が入った件である。実力が高く、そして逆鱗に触れれば凶暴化する。特に連れの少女に関しては触れてはならない。そんな噂が、冒険者の間に広まってきた為であった。
そうした複数の理由から、ベルスレイア達一行は妙な二つ名で呼ばれている。
手出し無用の女、と。
「――魔物の素材の買取をして欲しいのだけれど」
そうとも知らず、ベルスレイアは素材の買取カウンターの方へと向かう。
受付嬢はベルスレイアの顔を見た途端、慌てたように反応する。
「かっ、かしこまりました!」
「よろしくね、子猫ちゃん」
「……は、はいっ!」
流れるような自然な動きで、受付嬢の頬を撫でたベルスレイア。受付嬢が比較的美人であった為である。
緊張した、どこか幸せそうな表情を浮かべた後。受付嬢は再び慌てだす。
「そ、それとベルスレイア様! ギルドマスターがお呼びです?」
「あら、そうなの」
この私を呼びつけるなんて。無礼な男ね。下らない用事だったら殺してあげようかしら。
等と思いながら、ベルスレイアはギルドの奥。ギルドマスターが居るであろう執務室へと勝手に歩いていく。
「あの、案内の方は」
「結構よ。それより、素材の査定をお願い」
言って、ベルスレイアは大量の緑竜の素材を、買取カウンターの上へとぶち撒ける。溢れた素材がカウンターからぼろぼろこぼれ落ちる。
「えっ!? あの……ってこれ、ドラゴンの鱗ォ!?」
ゴミでもひっくり返したかのように粗雑な扱いをされた竜の素材。受付嬢は驚き、ベルスレイアの背を追うことも忘れて唖然とするのだった。