魔導器パンクトネイル 04
ベルスレイアが屋敷に戻ると、既に様相は一変していた。
古く伝統的な様式であった屋敷は、白亜のゴシック様式の宮殿のように生まれ変わっていた。屋敷を囲う塀は二メートルは高くなっており、壁一面を血のように赤い薔薇が覆っている。
「随分仕事が早いのね」
ベルスレイアが感心したように言いながら、門を潜る。
『――お帰りなさいませ、ベルスレイア様。リーゼロッテ様』
白薔薇達がずらりと並び、道の両脇に立って礼をする。声を合わせてベルスレイアとリーゼロッテの帰りを出迎えた。
「どう、驚いた?」
そして白薔薇達の先頭で、ルルが二人を出迎えた。
「一日もしないうちに、ここまで出来るとは思っていなかったわ」
「白薔薇の子達の中でも、魔法が得意な子の力でちょちょいとね。材料は、収納魔法持ちの子が持ってたし、地属性、風属性、炎属性辺りがあればこれぐらいはね」
「さすが私の所有物ね。素晴らしい仕事よ」
ベルスレイアは微笑み、視線を白薔薇達に向ける。誰もが幸福げな表情を浮かべつつも、姿勢は崩さない。
「……まあ、屋敷の内装はほぼ手つかずだけどね。ベル様とリズ様の部屋と、一部分だけ改装済みだけど、他はそのままって感じ」
「そこまでこの短時間で済ませてくれたなら、上出来よ」
「ありがとね。それと、ベル様が屋敷に飾りたいものとかあれば、後で適当なところに置いといて。それもこっちで、適当に飾っとくから」
「ええ、お願いするわ」
そうしてルルの案内のまま、ベルスレイアは自室に戻った。服装を冒険者風の者から屋敷の主に相応しい装いに変え、部屋を出る。
そしてそのまま屋敷の庭へと向かう。
「あれ、ベル様。なにかご用ですか?」
庭では、シルフィア率いる黒薔薇の面々が早々に訓練を開始していた。二人一組での組手をする様を見ながら、ベルスレイアは首を横に振る。
「少し、開けた場所を探しているだけよ」
「開けた場所、ですか」
「ええ」
「でしたら、向こうに屋敷の使用人が使っていた小屋があります。不要でしたら、取り壊して更地にしてしまうのも良いかと」
「なるほど。良いことを聞いたわ。ありがとう、シルフィ」
言って、ベルスレイアは去り際にシルフィアの耳たぶを軽く摘んでやる。喜びから、僅かに身じろぎをするシルフィア。
そして屋敷の庭の片隅、正門のある方からは目の届かない位置に来て、ようやくシルフィアの言っていた小屋が見つかった。粗末ではあるが、作りはしっかりとしており、使えなくもない。
「まあ、そのうち何かに使えるかも知れないわね」
呟くと、ベルスレイアは小屋をまるごと『潜影』で包み込み、影の中へと取り込んだ。
小屋の無くなった後は更地のみが残された。目的を達するには十分な広さがあった。
「さて――ここにしましょうか」
言うが早く、ベルスレイアは収納魔法の中から『ある物』を取り出す。
それはサンクトブルグにて王城から拝借した『部屋』であった。城のお抱えの技師が働く為の工房だったもの。それをベルスレイアは部屋ごと切り離すように収納魔法で収納してあった。
それを小屋のあった更地に設置する。当然、部屋を一つまるごと切り抜いている為、格好は不格好ではある。が、これで屋敷の片隅で、サンクトブルグの王都最高峰の技師が使っていた工房が利用できることになった。
無論、このような工房を設置した目的は唯一つ。
「さて――次は、作業着に着替えてこないと」
ベルスレイアが使用する為。――つまり、打槍を作り足すためであった。
その後、ベルスレイアは自室に戻るついでとばかりに、ルルを見つけて頼み事をする。屋敷の隅に工房を『置いた』ので、それの見た目も屋敷と同様に整備してくれ、と。
それだけを頼むと、ベルスレイアは自室に戻る。リーゼロッテとの約束もある為、服装を作業着――つなぎのようなものに変えた後は、リーゼロッテを引き連れて工房へと向かった。