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魔導器パンクトネイル 03




 ベルスレイアとリーゼロッテは、店内の装備を順に眺めて周り、時間を潰す。さすがに原始的な武器防具はベルスレイアが持つ装備の方が高品質であり、わざわざ買う必要のあるものではない。だが、作りや仕上げは上等なもので、非常に優秀な職人が作り上げたものであると見受けられた。


 やがて数分ほどで、店主らしき男が姿を見せる。

「商談をしたいとのお話ですね? お嬢様のお名前は」

「ベルスレイアよ。まずはお近づきの印として……そうね、この辺りの物をまとめて買っておこうかしら」

 言って、ベルスレイアは近場に並ぶ武器防具を適当に指し示す。


「大金貨で二枚か三枚程度の品物になりますが」

「ええ、問題ないわ」

 ベルスレイアは懐から――に見せかけつつ収納魔法から大金貨を四枚取り出し、男に渡す。

「細かいお金は荷物になるから要らないわ。そちらで貰ってくださるかしら」

「畏まりました、お嬢様」

 男は深く頭を垂れる。


 頭を上げると、既に商談に入るつもりなのか、真剣な表情を浮かべていた。

「それで、商談というのは?」

「ええ。実は個人的な理由で、沢山の金属が必要なのだけれど」

「金属、ですか」

「ええ。むしろ、鍛冶に必要な資源はあらかた欲しいわ。それを直接買いたいのだけれど、私では伝手が無いの」

「なるほど、それで当店に仲介をしてほしい、と?」

「話が早くて助かるわ」

 言って、ベルスレイアは再び懐から――十枚の大金貨を取り出した。


 男はさらに取り出された大金貨を見て、目を見開く。

 大金貨十枚もあれば、店に並ぶ武器防具のほぼ全てを買い占めることさえ出来る。そして、それだけの資金を全て資材の仕入れに使えというのだ。その総量は、店に仕入れられる武器防具の半年分と同等の質量になる。

「……一度に仕入れることは難しくなりますので、複数回に分けて納品する形でも構いませんでしょうか?」

「ええ、構わないわ。もしお金が足りなければ、請求に来なさい。場所は――」

 ベルスレイアは、今日入手したばかりの屋敷の住所を告げた。男はその屋敷がどのような曰く付きの立地であるか把握していた為、尚更恐縮する。


「それと、今日中にいくらか資材を貰っていきたいのだけれど。こちらのお店で金属のインゴット等は置いていらっしゃらないのかしら」

「いくらかであれば。装備の性質を確かめる標本としても使いますので」

「では、それを幾らか融通していただけますか?」

「は、はい。畏まりました」


 男は慌てたように店の奥へと姿を消し、そして数名の店員を連れてすぐさま戻ってくる。連れられた店員は、無数のインゴットを抱えていた。

「当店で現在用意できますのは、これで全てでございます」

「まあ、とりあえずは十分ね。ありがとう」

 ベルスレイアはチップとして大金貨を一枚、男の手に乗せる。そして店員達には金貨を一枚ずつ。中でも女性の店員は頬を撫で、優しく愛でた後、ベルスレイア自らの手で懐に忍ばせてやった。


「それでは今日はこれで――」

 ベルスレイアが店を立ち去ろうとして、リーゼロッテに目配せをした時だった。

「これらは、全部違うものなのですか?」

 リーゼロッテが、店員達が持ち出してきたインゴットに興味を示した。

 その目が輝いているのに気づき、ベルスレイアは観念する。この場でリーゼロッテが満足するまでは、帰ることは不可能だろう、と。


「ええ、そうよリズ。まずはこれが普通のアルミニウム」

 ベルスレイアはまず一つ、店員が抱えるインゴットを手にした。

「そしてこっちがミスリルよ」

 言って、ベルスレイアはまた別の店員が抱えていたインゴットを手にする。


 アルミニウムは白銀色をしているが、ミスリルは薄い青緑色に染まっており、神秘的な光沢を放っていた。

「二つは、何か関係のあるものなんですか?」

「鋭いわね、リズ。その通りよ」

 ベルスレイアはリーゼロッテに褒めるような視線を向ける。


 それと並行して、片手に持ったアルミニウムに大量の魔素を魔素操作により流し込んでいく。すると、途端にアルミニウムのインゴットはミスリルのインゴットと同様の薄い青緑色の光沢を放つようになる。

「見てのとおり。ミスリルとアルミニウムは同じ物質よ。単に強い魔素を浴びて結晶構造に変化が起こったものがミスリル。通常の結晶構造のものがアルミニウムというだけに過ぎないの」


「べ、ベルスレイア様! そ、それはどういうことなのですか!?」

 ベルスレイアとリーゼロッテのやり取りを黙って眺めていた、店主の男が口を挟む。ベルスレイアは苛立ちの視線を向ける。が、そもそも男の反応も無理の無いものであった。この世界における魔法金属は、通常の金属とは別の物質であると考えられている。

 にも関わらず。ベルスレイアは男の目の前で、ただのアルミニウムをミスリルに変えてしまった。


「黙ってなさい。今はリズに説明をしているのよ。お前の出る幕ではないわ」

 ベルスレイアは僅かな殺気を込め、男を睨みつける。男は途端に黙り込む。だが、胸中に浮かんだ疑問の渦は消えることは無かった。ベルスレイアの行ったことの真相を知りたい、と視線で訴え続ける。

 だが、それすらも無視してベルスレイアはリーゼロッテに話を続ける。


「基本的に、魔法金属はこのミスリルとアルミニウムと同じように、通常の金属と魔法金属で一対一で対応しているの。両者の違いは唯一つ」

「魔素で、えと、けっしょー構造、というのが変わっているか、そうでないかですか?」

「そうよ、リズ。理解出来てえらいわ」

 ベルスレイアは自然な動きで二つのミスリルインゴットを収納魔法の中に片付け、空いた手でリーゼロッテの頭を撫でた。


 突如消えたインゴットを見て、男は無論、店員達も目を白黒させる。だが、いくら見返してもミスリルインゴットは跡形もなく消え去っていた。

「もっと詳しく魔法金属について知りたければ、屋敷に戻ってから教えてあげるわ。リズ、今日はこれぐらいにして帰りましょう?」

「はい! 私、ベルにもっと不思議なもののことを教わりたいですっ♪」

 リーゼロッテは、ベルスレイアに甘えるように抱きつく。その頭を撫で、表情を綻ばせるベルスレイア。


 そして数秒程のじゃれ合いの後、ベルスレイアは店主の男と店員達に鋭い視線を向ける。

「では、後は宜しくおねがいしますね。それと、ここで見聞きしたものを、どう言いふらそうと勝手ですけれど――」

 一度言葉を区切り、ベルスレイアはニヤリと笑って続ける。

「少なくとも、アルミニウムをミスリルに変えたければ、常人ならば百人は命を落とす程度の魔力が必要だと覚えておきなさい」

「は、はい……畏まり、ました」

 辛うじて、男は返事をした。驚きのあまり、言葉が詰まってしまう。しかし、それでも店主としての意地が最後まで接客対応をさせた。


 その後、ベルスレイアは店員の抱えていた全てのインゴットを収納魔法で一瞬にして片付けてしまう。再びありえない現象を目の当たりにし、店員達は混乱して訳の分からない言葉を掛け合う。

 そうした様子に見向きもせず、ベルスレイアとリーゼロッテは屋敷への帰路に着いたのであった。

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