表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

125/180

魔導器パンクトネイル 02




 帝都を訪れて以来、初の市街地への外出である。

 リーゼロッテは無論、ベルスレイアもまた、これまで市街地をまともに見回ってはいない。スイングベル商会と冒険者ギルドにこそ足は運んだものの、それ以外はほぼ素通りに近い状態であった。


 故に、今回の買い出しは両名揃って初の市街地散策であると言えた。

「楽しみです。どんな面白いものがあるんでしょうか?」

「きっとリズの気に入るものが沢山あるわ」

 喜び浮足立つリーゼロッテと、その姿を微笑みながら見つめるベルスレイア。


 屋敷から徒歩で数分。スラム近辺の治安が悪い区画を抜け、表通りへと出る。それだけで人通りは一気に増え、雰囲気も明るくなる。

 雑貨や家庭用の魔導器を扱う店も多いが、当然各種食料品を扱う店も立ち並ぶ。その中に、まばらに武器や防具を扱う店もあった。


 だが、今回の目的はそれらのどれでもない。新装備の素材となりうるもの――つまり魔法金属や、その元となる通常の金属。そして帝都北部大遺跡で見たような、魔導セラミックスの原料となりうる物質。

 これらを扱っているとすれば――まずは鍛冶屋。武器防具の製造から手掛ける店を探す必要がある。


 武器防具を扱う店にも二種類があり、一つは鍛冶屋の製造した品物を卸して売る小売店。そしてもう一つが、鍛冶屋と併設型の直売店である。直売店の場合は、冒険者や傭兵、騎士等から受注を受けて一品物の装備を作ることも多い。

 故に、各種素材、原料についても仕入れてある。交渉次第では直接素材を買い取るか、素材の卸元について聞き出せるはずであった。


 故に、ベルスレイアは比較的大きめの、設備の整った武器防具店を探して商店街を歩く。

「まあ! ベル、これは何ですか?」

 そして、ベルスレイアの事情など関係なく、商店街の品物を見て満面の笑みを浮かべはしゃぐリーゼロッテ。

 今回リーゼロッテが興味を示したのは、蒸魔素機関で動く調理器具であった。中に入れた食材に圧力を加えながら加熱するという、言うなればコンロ要らずの圧力鍋である。


「そうね……これを使って料理をすると、味が良く染みて、柔らかく仕上がるのよ」

「なるほど、美味しく料理をするためのものなんですね」

 リーゼロッテは興味深そうに鍋を眺める。蓋から吹き出る蒸魔素と、コンロ無しで稼働する様は、鍋というよりは炊飯器に近い。

 これでお米の代わりに麦でも炊いてみようかしら――と、ベルスレイアは日本食に思いを馳せる。


 だが、別段必要というものでもない。躊躇は一瞬で、すぐに足は動き出す。

「ほら、リズ。次に行きましょう?」

「はいっ♪」

 リーゼロッテはベルスレイアの腕に抱き着き、そのまま共に歩き出す。


 しかしそのリーゼロッテの手には……蒸魔素炊飯器がしっかりと握られていた。

「……リズ?」

「はい?」

「どうしてその魔道具を握っているのかしら」

「あると便利ですよね?」


 こてん、と首を傾げ、当然の如く言い放つリーゼロッテ。説得は不可能であろう、とベルスレイアは悟った。小さく息を吐き、道を引き返して魔道具店へと入店する。

「店主さん。こちらの魔道具、買わせていただくわ」

 言ってベルスレイアは、大金貨を店主らしき男に向けて放り投げる。


「ひ、ひえぇっ!? だ、大金貨っ!?」

「おつりはいらないわ」

 それだけを告げて、ベルスレイアは店を出た。


 そしていつの間にかベルスレイアから離れ、向かい側の店を覗き込んでいたリーゼロッテが手をふる。

「ベル! これ、すごいんですよ! 赤いのと、白くて赤いのがふわふわしています!」

 言って、リーゼロッテが指差したものは地球におけるスノードームのようなおもちゃであった。但し、内側で舞っているのは雪ではなく金魚……によく似たこの世界における観賞用の魚を模したもの。そして水流は魔道具によって常に発生し続けており、まるで金魚が球体の中を自在に泳いでいるように見える。


 目を輝かせながら、ベルスレイアを見つめるリーゼロッテ。

「……欲しいのね?」

「はいっ!」

 ベルスレイアは、無言で魔道具店の店主に大金貨を投げて寄越した。



 その後も、少し進む毎にリーゼロッテが魔道具に興味を示す。それをベルスレイアが大金貨で買い与える。その間にまた次の店でリーゼロッテが目を輝かせ……という繰り返しを続け、ようやくベルスレイアは目的の店を発見した。


「あの、ベル? ここは何のお店ですか?」

「ここは武器と防具の総合店舗のようね。規模も大きいし、丁度いいわ」

 リーゼロッテに説明をしつつ、ベルスレイアは入店する。


 店内には武器、防具が種類別に陳列されており、小綺麗であった。冒険者が来店するような店とは思えない程度には清潔感があり、ベルスレイアには好印象。

「こちらの店主さんはどちらかしら?」

 そして笑みを浮かべたまま、ベルスレイアは近場に立っていた店員らしき女性に声を掛ける。

「会長にご用ですか?」

「ええ、商談を」


 言いながらベルスレイアは、大金貨を取り出して店員の手に握らせる。

「取り次いで頂けるかしら?」

「か、畏まりました」

 店員は想像を遥かに超える金額のチップを受け取り、急ぎ足で話を取り次ぎに向かう。

本日から更新を再開します。

もう一方の作品、『蒼炎の英雄-異世界に勇者召喚された少年は、スキル『火傷耐性』を駆使して成り上がる-』と交互に更新していく予定になっております。

宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ……吸ッ!生きワレェ!!!!!!!!!!(言葉の溜撃) いや、まじで。 それにしても良かった良かった。 好きな作品が帰ってきたぜぇ! [一言] 確かパイルバンカー2号機を造りに来たんだっけ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ