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帝都北部大遺跡 06




 遺跡最深部にて、水晶の破壊を済ませたベルスレイアは、すぐさま帰還した。最早遺跡に用は無い。探索も何もすることなく、上層へと引き返す。そして崖に面した部屋を見つけ次第、血の翼で空を飛んだ。

 図書館での資料の読み込みに時間が掛かったらしく、既に日が沈もうとしていた。


 遺跡の探索となれば、普通は数日間潜ることが前提となる。だが、ベルスレイアの場合は日帰りを前提にしていた。

 これは、帝都でベルスレイアの帰りを待つ、リーゼロッテの為である。

 今、は冒険者という身分のある三人だけが行動の自由を得ている。その為、リーゼロッテは帝都に引きこもらざるをえない。


 同様の理由で、ベルスレイアの影の中には今も白薔薇、黒薔薇の面々が控えている。折を見て、少しずつ帝都に開放し、仕事を任せるつもりではあるのだが。今は、外に出すわけにもいかない。

 また、影の中とはいえ、腹も減れば喉も渇く。そのため、大量の兵站を影の中へと取り込み、送る必要もある。備蓄は十二分にあるが、それでも長期間補給と無縁の環境に身を置くのは避けるべきだ、とベルスレイアは考えていた。


 近い内に、帝都を掌握する。その暁には、リーゼロッテは無論、影に控える白薔薇、黒薔薇の全員を堂々と連れ歩くつもりではあるのだが。

 何にせよ、今は戦力として隠し、温存しておく予定であり、そんな大切な所有物の管理の為にも、帝都への帰還は必須である。



 そうした個人的な理由での、日帰り攻略ではあったのだが。結果として、ベルスレイアの実力を証明するには十分すぎる功績となった。

 冒険者ギルドへと帰り、帝都北部大遺跡の攻略を完了した、と報告。当然、そのような真偽の疑わしい報告、受付だけで処理できる話ではない。すぐにギルドマスター、ギルバートへと報告が行き、三人揃って別室へと喚び出される。


「――さて、こないだの嬢ちゃん達だな。北部大遺跡を攻略したってのは」

 ギルバートはため息を吐きながら、首を横に振る。

「……いや、信じていないわけじゃねぇんだ。お前らの実力が高いことは理解している。けどなぁ、説得力ってもんがなきゃあ、どうにも出来ねぇわけだ」

 要するに――登録したばかりの新人が、前人未到のダンジョン深部へと到達し、それも日帰りで攻略を完了した、というのは現実味が無い。あまりにもの偉業が過ぎて、虚言にも聞こえかねない。と、いう意味であった。


「証拠ならあるじゃじゃないの」

 ベルスレイアは、机の上に載せた一握りの砂――元々は遺跡の最深部で魔素を放っていたものの残骸を指差す。

「まあな。こりゃああちこちの遺跡の核になってるものと同じ物質だ。俺だってそれぐらい見りゃあ分かる。お前らが嘘を言ってないってことはな」

「ならいいじゃない。とっとと私たちをSランクに昇格なさいな」


 ベルスレイアの要求に、眉を顰めるギルバート。

「……いや、俺としても面倒事は避けたいからな。お前らはむしろ、とっととSランクになって特別扱いされてもらわなきゃ困る。けどなぁ、普通Sランクってのはそうホイホイ増えたり減ったりするもんじゃないわけだ。誰がSランクになって、誰がなれないのか、ってのは事前に大勢の人間の間でよく話し合われてから決まるわけだ」

「つまり既得権益の都合上、どこにも属さない新参というのは面倒事に巻き込まれやすい、というわけね?」

 ギルバートの言いたいことを、ベルスレイアは理解した。


「気にしなくていいわ。降りかかる火の粉は払うだけよ」

「……まあ、どこぞの貴族がちょっかい出してくるとしてだ。それをお前らが自分の裁量でどうにか処理できるっていうなら、俺個人の権限でSランクに暫定しておくことは出来るけどな」

「はっきり言いなさい。敵を作って襲われるリスクを承知するなら昇格してやる、と」

 ベルスレイアの、歯に衣着せぬ物言いに、ギルバートは苦い顔をした。

「そこまで極端な意味じゃないが、まあ、そうだな。要するにそういうことだ」

「なら問題ないわね。すぐSランクに昇格させなさい」


 こうして、話は纏まった。ギルバートとしては、実質Sランク内定のAランクなどといった段階を踏んでほしいところではあった。Sランクという火種は大きな政争を引き起こしかねない。

「……できる限り、穏便に済ませてほしいところだがな」

 そう、思わずぼやいてしまうほどには、Sランクという肩書に纏わる権益は複雑である。

「あら、なら心配いらないわ」

 そして、そんな悩ましげなギルバートに向かって、楽しげに言ってみせるベルスレイア。


「最も穏便で、平和的な解決策というものを知っているかしら?」

 ベルスレイアの問いに、ギルバートは首を横に振る。

「下らないことで私に楯突く無能を皆殺しにすれば、平和なんてすぐよ」

 そして暴力的な解決策の提示に、思わず項垂れる。

「……まあ、あんたらが出来るって言うなら出来るんだろうな」


 ギルバートは、自らも既得権益に齧りつく貴族を嫌っているものの、今回ばかりは同情と憐憫の念を抱いた。

「自業自得、って言えばそうなんだがなぁ。帝都の膿を出し切る、って思えば悪くもないか」

 そして、自らを説得するような言い回しでボヤく。

「よし、分かった。Sランク昇格は俺が責任持って処理しといてやる。明日には冒険者証を更新してやるから、一度顔を出してくれ」

「ええ。それでいいのよ、それで。最初からゴネずに従っておきなさい」

「へいへい……」


 Sランク冒険者は性格に難のある者が多い。故に、ギルドマスターかつ元Sランク冒険者であるギルバートにとって、ベルスレイアの不遜な態度はさほど不快なものでもない。

 だからこそ、気安く。しかし、実力を知っているからこそ侮らない。ベルスレイアの不興を買わないよう、適度な態度を維持していた。


 そしてベルスレイアも、そうした気遣いの出来るギルバートは貴重な人材だと理解している。故に、多少の粗相で厳しく罰するようなこともしない。これが有象無象の無能であれば、話は別であるのだが。


 何にせよ、こうしてベルスレイアによる帝都北部大遺跡の攻略は正式に受理された。同時に、その功績によりベルスレイア達三人の冒険者ランクはSランクへと昇格。

 これで、帝都における明確な立場が出来上がったことになる。実力主義を謳う帝都で、Sランクという肩書は時に貴族さえ凌ぐ権力を発揮する。


 これでようやく――多少の無理が通せるわね。

 ベルスレイアは胸中でそんなことを考え、薄っすらと微笑んだ。

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