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帝都北部大遺跡 04




 ベルスレイアはシルフィアとルルへと指示を出す。

「遺跡に関わる情報。過去にまつわる情報。その他、なんでも良いわ。未知の情報が纏められている本を片っ端から持ってきなさい」

 その指示に、首を傾げるのはルル。

「本当になんでも? それじゃあ図書館全部読んで回るようなもんじゃない?」


 その言葉にベルスレイアは頷く。

「そのつもりよ。もちろん、既知の魔法や魔素に関する知識なんかは集めても仕方がないわ。そういった今でも通用する常識に類する知識を纏めた本は必要無い。それに、小説なんかの作り話の類も集めたって仕方ないから除外。それ以外は、基本的に全て持ってきなさい」

「あの、ベル様。そんなに大量の本を読めるのですか?」

 シルフィアの疑問は尤もなものであった。これに、ベルスレイアは頷いて応える。


「私の血の魔眼を使って、複数の本を同時に読むのよ。ページは魔素操作を駆使して捲るわ。サンクトブルグで仕事をする時も、同じようなことをしていたわよ?」

「ああ、通りで妙に書類仕事がお早かったんですね」

 一人で何人分もの仕事をこなし、なお優雅な生活をしていた公爵令嬢時代のベルスレイア。その謎が解け、シルフィアは一人で勝手に納得する。


 そうしてそれぞれの疑問も解消されたため、本の選別が始まった。文字は文法や字形こそ古いものの、現代使われる言葉と基本的には同じものであった。故に、言語の壁はさほど問題とはならず、選別作業は順調に進んだ。

 次々と本がベルスレイアの元に運ばれ、それを床に並べるベルスレイア。目を瞑り、血の魔眼の効果による俯瞰視点にのみ集中する。そして読み終わったページは、次々と魔素操作による弱い念動力のような力で捲っていく。


 無数の書籍が、ひとりでにページを捲っていく。その光景に、シルフィアとルルは息を飲む。

 当然、主たるベルスレイアの強さは理解していた。だが――こうして、暴力に限らない能力まで常軌を逸している。それを目の当たりにすると、思わざるを得ない。この人についてきて正解だった、と。

 そんな二人の表情も、しっかりと血の魔眼で捉えつつ。ベルスレイアは書籍の内容に目を通していく。

 内容の多くは、研究について纏められたものだった。中には研究員らしき何者かの日記と思われるものもあった。具体的な研究に関する情報は、ベルスレイアから見て意味を持たない。だが、頻出する単語については把握しておく。


 ――魔女。破壊の魔女。観測された魔女の素質の再現。破壊の魔女の栽培。

 そんな言葉が、幾度と無く登場する。そして資料を見る限り、その研究成果は芳しく無い様子だった。失敗、不安定。遺伝異常による完全な魔物化。そういった様々な言葉で『破壊の魔女』と呼ばれる何かを生み出すことに失敗している。


 そう、破壊。魔女は破壊の名を関しているのだ。


 ベルスレイアが持つスキル『破壊』。そして『破壊』の魔女。

 清美としての記憶に残る風景も含め、無関係とは到底思えない。眉を顰めて、より詳しい情報を探ると決める。

「――二人とも。破壊の魔女に関する本を集めてちょうだい」


 その言葉に、シルフィアが疑問を返す。

「破壊の魔女、ですか?」

「ええ、そうよ」

「そんな『おとぎ話』の本を集めて、どうするんですか?」


 思わぬところに、有益な情報が転がっていた。


「おとぎ話? どういうことなの、シルフィ。説明してちょうだい」

「え、はい。破壊の魔女は、魔王の伝説に出てくる三人の魔女の一人です。深淵の谷の底から、最初に魔王と、次に三人の魔女が生まれてくる。四人が揃った時、深淵の谷から魔族や魔物が溢れ出して、世界を支配する。そんな感じのお話です。魔族や妖精族の間では、けっこう有名なお話です」

「人間の間では、少し違う形で語られてるね」

 ルルがシルフィアの説明に口を挟む。


「魔王と三人の魔女が揃う時、全ての深淵の谷から生まれた者たちの力となり、世界を災厄と混沌に包む。まあ、要するに世界の終末を予期する古い予言みたいなものだね」

「その予言を残したのは?」

「さあ。どっかの魔法使いとも言われてるし、何代も前の魔王が言い残して死んでいったとも言われてる。あとは、大樹の女神フォルトゥナ様が言ったことだ、っていう説もあるよ」


 大樹の女神フォルトゥナ。その存在もまた、ベルスレイアには深く関わっている。

 破壊のスキルに、魔王と三人の魔女の予言。そして女神フォルトゥナ。全てが一つに繋がっており、その延長線上に自分が居る。ベルスレイアには、そう思えてならなかった。

 となれば、この遺跡で生み出そうとされていた『破壊の魔女』についても興味が湧く。


「どうやら、この施設はその三人の魔女のうちの一人、破壊の魔女を生み出そうとしていたみたいよ」

「破壊の魔女ですか? 何故?」

「それを知りたいのは私の方よ」

 シルフィアに言い返しながらも、ベルスレイアは血の魔眼で本を読む作業を続ける。


「戦争で使う生物兵器の開発。伝説の実現を願う宗教的な組織の行動。あるいは、人類が終末思想を拗らせてやらかしたのかもしれないね」

 ルルは真剣に考えながら言い、しかし首を横に振る。

「でも、どれも不自然だね。こんな崖の間にここまで大規模な施設を作ってやることとは思えない。場所が重要だったにしても、規模が大きすぎる。宗教や拗らせキチガイが原因ではないだろうし。伝説の実現を願うなら立地がおかしい。もっと魔族の領域に近い場所じゃなきゃ不自然だ」


 言うまでもなく、この遺跡は帝都北部の遺跡。つまり人類の領域に存在する遺跡である。

 魔王と三人の魔女の予言を実現するべく行動するとすれば、魔族に他ならない。であれば、魔族の領域に同様の施設を作る方が自然である。

 つまり、帝都北部にこのような施設を作る理由が魔族には存在しない。よって、この施設が魔族の手によって作られたものである可能性は低い。


「――推測しても仕方がないわ。何か情報が得られることを祈りましょう」

 そう言って、ベルスレイアはルルの推測を制止する。これにルルも頷き、新しい資料を運んでくる作業に専念する。



 その後、数時間にも渡って籍の閲覧が続いた。

 だが、ベルスレイアが望むような情報は得られなかった。


 破壊の魔女。女神フォルトゥナが残したとされる予言。

 新たな謎だけを抱えて、ベルスレイア達は図書館を後にした。

お久しぶりです。


話は変わりますが、新連載の方、投稿をはじめました。

男性主人公のお話ですが、よければ目を通してやって下さい。

タイトル『蒼炎の英雄-異世界に勇者召喚された少年は、スキル『火傷耐性』を駆使して成り上がる-』

https://ncode.syosetu.com/n4620fw/

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