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帝都北部大遺跡 01




 ――LTOというゲームは、実寸大の北海道にも匹敵する広大な世界を舞台にしたものである。当然、プレイヤーはその広大な世界を自分の足で歩き、冒険をしたわけである。

 だが、いくら広大と言えども、その世界には限界がある。


 その限界――プレイヤーの侵入不可能な領域の一つが、深淵の谷である。

 当然、そんな場所にダンジョンが存在するはずがなく。ベルスレイアもまた、清美であった頃に立ち入ったことは無かった。


 だが、この世界は現実である。

 当然到達不可能な領域など存在しない。故に、深淵の谷の先にも、底にも自由に行ける。

 だからこそ。ベルスレイアには興味があった。ゲーム時代には、踏み入ることさえ出来なかった場所。そこには一体何が存在するのか。どんな謎が待っているのか。


 高揚感があった。ベルスレイアは、興奮していた。

 その気持ちを鎮めながら、ルルに問う。

「で、ルル。この先はどう進むつもりなのかしら?」

 ベルスレイアの問いに、ルルは笑顔で答える。


「当然、ベル様の翼で、ぴゅーっと」

「私の?」

「そうそう」

「……いいわ。それしか方法も無さそうだもの」

 呆れたような視線をルルに向けつつ、ベルスレイアは諦めた。主人を主人と思わないような言動だが、ルルにそれを許したのはベルスレイア自身。こういった友人めいた距離感も、こういう時と場所でなければ、悪くないものである。


 ベルスレイアは求められるがまま、血の翼を生み出す。

「二人は一度、影に入ってなさい」

 言って、ルルとシルフィアを潜影の中に取り込むベルスレイア。その後、崖に向かって駆け出し――飛び降りる。

 直後に翼をはためかせ、飛翔。正確には滑空だが、爆破の魔法による推進力も合わさっているため飛行とそう違いは無い。


 順調にベルスレイアは崖の間を飛んだ。正面に見える遺跡へと近づいたところで、翼を動かし、空気を掴んで減速する。

 上手く速度を殺し、遺跡の中にゆっくりと入り込む。静かに着地を決め、ゆったりと辺りを見回す。

「……奇妙ね」

 言いながら、ベルスレイアは潜影から二人を、ルルとシルフィアを連れ出す。


「どうかなさいましたか?」

「いえ、何も」

 シルフィアに問われ、ベルスレイアは誤魔化す。だが、実際には頭の中を困惑が支配していた。

 何しろ――周囲の光景に、見覚えがありすぎる。


 リノリウムの細長いフロア。窓枠の向こうには、規則正しく並べられた机と椅子。そして部屋の正面と後方、それぞれに黒緑色の板が張られている。

 まるで――学校のような。むしろ、学校そのものと言える空間。

 その光景が、ベルスレイアを困惑させていた。


 ただ、ベルスレイアの知る学校とは異なる部分も存在する。机の素材は、石か何かのように見える。この世界でも見たことのある材質だ。また、後方の黒板に橙色の塗料で書かれた文字は、この世界の文字で『時間割』。しかも、随分と古い字体。貴族として、家にあった書籍で勉強をしていなければ読めなかったであろうほどの古さである。

 となれば、やはりこの遺跡はこの世界のもので間違いない。


 だが、だとすればなおさら不自然である。なぜ、こうも清美の世界の学校に瓜二つな施設が存在するのか。

「行きましょう、ベル様」

 考えるベルスレイアを、シルフィアが諌めるように言う。確かに、遺跡に入って早々に考えるようなことではなかった。

「そうね、行きましょうか」


 三人は遺跡の探索を開始する。

 見たところ、魔物の姿は無い。また、遺跡にありがちな自動式のゴーレムも存在しない。安全そのものと言えた。

「……ダンジョンにしては、静かすぎますね」

「上層はかなり安全なんだよ」

 シルフィアの一言に、ルルが回答する。


「かなり下に行けば、魔物もゴーレムも見かけるようになるらしいよ。で、そこら辺が今までに探索された限界」

「魔物が出始めてすぐに、ですか?」

「そう。やたら魔物もゴーレムも強くて、とてもじゃないけどそれより下には行けないらしいよ」

 ベルスレイアは、二人の会話を耳にしながらも、周囲をよく観察する。


 やはり、構造は学校そのもの。廊下を進んだ先には、階段がある。一度踊り場まで降りると、折り返して下の階へ続く。そして下の階にも同じように教室らしき部屋が並ぶ。

 なぜこんな空間が存在するのか。それを考えることに意味など無い。だが、ベルスレイアは考えてしまう。


 ――遥か昔、この世界と私の前世の世界は、関わりがあった? それとも、私みたいな存在がこの遺跡を作った? どちらにしても、どうして学校なんか作る必要があったのかが分からないわ。それも、こんな谷の壁面に。

 思考が渦巻く。だが、結局答えなど出ない。


「――いくら降りても、同じようなフロアばかりです。ベル様、ひとまず降りられるだけ下まで一気に降りませんか?」

 シルフィアの提案が、ベルスレイアの思考を中断させる。

「そうね。それがいいかもしれないわ」

 何より、深部に行けば謎が解けるかもしれない。

 淡い期待と、好奇心からくる高揚感を抱いて。ベルスレイアは階段を下っていく。

今日から投稿頻度が下がります。

お楽しみにしていただいている皆さまには申し訳ありませんが、ご理解お願いいたします。

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